●死後なお生前の商売を続けるスピリット
 シカゴにおける交霊会で、死後なおその事実に気づかないまま、生前と同じ商売を続けているスピリットが憑依してきた。
 「なぜ、こんな暗いところへ集まっているのですか。私は、名前をヘセルロスといい、ドラッグストア(薬局の他に日用雑貨も売っている店で、喫茶室まで付いているところもある)を経営している者です」ー開口一番、スラスラとそう言うのだった。その時は部屋を暗くしていた。
 このスピリットは前の年に病院で死亡したスウェーデン人で、シカゴでドラッグストアを経営していた。サークルの常連は、彼について何一つ知識はなかったが、その夜は彼の生前の友人の一人であるエクホルム氏が出席していたので、その身元がすぐに確認できた。まだ自分の死の自覚がなく、今でもドラッグストアを経営しているつもりでいるようだった。
 しかし実は、その店は当時の店員が買い取ったと聞いている、と出席していた友人が告げると、それをきっぱり否定して「彼は私が雇っているのです」と言った。
 面白いことに、そのスピリットはその頃に実際に起きた強盗事件の話をした。三人組が押し入ったので度肝を抜かれたが、勇気を奮い起こしてピストルを取りに行った。ところが、ピストルを手に取ろうとして握りしめるのだが、どうしても掴めない。やむを得ず、素手で向かって行って、三人のうちの一人をぶん殴った。しかし、なぜか『そいつの体を突き抜けて』空を切るばかりだった。どうしてだろう、と不思議でならなかったという。
 そこで、我々が彼の現在の身の上について語って聞かせているうちに、意識に変化が生じたらしく、自分より先に他界している大勢の友達の姿が見えるようになり、その友達に引き取られて、霊界での新しい生活へと入っていった。
 ドラッグストアの持ち主が替わっていること、三人の強盗が押し入ったことは、その後の調べで事実であることが確認されている。
 この場合、霊媒の潜在意識説もテレパシー説も通用しない。なぜなら、そのサークルの中でヘセルロスを知っていたのは、友人のエクホルム氏だけで、その友人も、ドラッグストアが他人の手に渡っている事実は噂で知っていたが、その買い主は当時の店員ではなかったことが判明しているからである。
 その後何年かして、再びヘセルロスが出現した。その時のやりとりを紹介する。


 1920年9月29日
 スピリット=ヘセルロス
 霊媒=ウィックランド夫人
 質問者=ウィックランド博士



スピリット「一言、お礼を申し上げたくてやってまいりました。暗闇の中から救い出して頂き、今では、このマーシーバンドのお手伝いをさせて頂いております」
博士「どなたでしょうか」
スピリット「あなたのお仕事のヘルパーの一人です。時折この交霊会に出席しておりますが、この度は一言、お礼を申し上げたくてまいりました。かつてはとても暗い状態の中で暮らしておりましたが、今ではあなたの霊団の一人となっております。あなたにとっても喜ばしい話ではないかと思います。もしもあなたという存在がなかったら、私は多分、今でも暗い闇の中にいたことでしょう。あれから何年も経っております。その間あなたを通じて、またマーシーバンドの方を通じて、生命についての理解が深まりました。私が初めてお世話になったのは、ここではありません。シカゴでした。
 今夜は、皆さんと一緒に集えて、とても嬉しく存じます。地上時代の名前を申し上げたいのですが、もうすっかり忘れてしまったようでして。何しろ何年も人から名前を呼ばれたことがないものですから。そのうち思い出すでしょう。その時申し上げます。
 例の老紳士を覚えていらっしゃるでしょう?エクホルムといいましたかね?『老』をつけるほどでもなかったですが・・・・。彼は地上時代の親友でして、彼との縁で皆さんとの縁も出来たのです」
博士「シカゴでの交霊会でしたね?」
スピリット「そうです。私はシカゴでドラッグストアを経営しておりました。そうそう、思い出しました。私の名は、ヘセルロスでした!つい忘れてしまいまして・・・。今ではあなたの霊団のヘルパーの一人です。エクホルムもそうです。彼もよくやっております。喜んで、あなたのお仕事を手伝っております。地上時代でも、霊の救済のことで一生懸命でしたからね、彼は。私は今こそ、一生懸命お手伝いすべきだという気持ちです。何しろ、あの時、皆さんに救って頂かなかったら、今頃は相変わらずあの店で薬を売ってるつもりで過ごしていたことでしょうね。
 あの頃は、死後丸一年くらいまでは、あの店を経営しているつもりでいました。地上時代と変わったところといえば、病気が治ったつもりでいたことくらいでして、死んだとは思っていなかったのです。店にいて病気になり、病院へ運ばれ、その病院で死にました。遺体は葬儀屋が引き取り、自宅には運ばれませんでした。
 ご承知のように、バイブルには『汝の財産のあるところに汝の心もあるべし』(マタイ伝6・21)とあります。眠りから覚めた時に、私が真っ先に思ったのは店のことでした。それで、その店に来ていたのです。経営状態はいたって順調にいっているように思えたのですが、一つだけ妙なことがありました。私がお客さんに挨拶しても、まったく反応がないことです。私はてっきり入院中に言語障害にでもなって、言葉が出ていないのだろうくらいに考えて、それ以上あまり深く考えませんでした。
 そのまま私は、ずっと店を経営しているつもりでいて、店員にも意念でもって指示を与えておりました。経営者はずっと私で、店番は店員に任せているつもりでした。そしてある夜、この方(博士)のところへ来て初めて、自分がもう死んでいることに気づいたのです。
 例の強盗が押し入った時は、いつも引き出しに仕舞ってあるピストルのことを思い出して、そこへすっ飛んで行って握りしめようとするのですが、するっと手が抜け出てしまうのです。何かおかしいなと思ったのはその時です。その時から物事を注意して見るようになりました。
 そのうち、父と母に出会いました。とっさに私は、頭が変になったのだろうと思ったくらいです。そこで、エクホルムに会ってみようと思いました。彼はスピリチュアリズムに関心があり、私はそんな彼こそ、少し頭がおかしいのではないかと考えていたのです。それで、幽霊というのは本当にいるものかを尋ねてみたかったのですが、なんと、自分が立派な幽霊になっていたというわけです。
 その後、このサークルに来たわけです。皆さんと話をしているうちに、心のドアが開かれて、美しいスピリットの世界が眼前に開けたのです。その時の歓迎のされ方は、ぜひお見せしたいくらいでした。親戚の者や知人が両手を大きく広げて『ようこそ』と大歓迎をしてくれました。その素晴らしさは、実際にこちらへ来て体験なさらないことには、お分かり頂けないと思います。これぞ幸せというものだと実感なさいます。まさに『天国』です。
 そろそろ失礼しなくてはなりません。今夜はこうしてお話ができて、嬉しいです。あれから十五年ぶりですからね。エクホルムも誇りをもってお手伝いしております。皆さんによろしくとのことです。
 では、おやすみなさい」