そこでフォックス氏が、すぐ隣のレッドフォード家へ行って簡単に事情を説明してから、とりあえず奥さんに来てもらった。奥さんは「ほんと?」と言わんばかりの笑顔で入ってきた。そして早速天上へ向かって
 「あたしが産んだ子供は何人?」と聞いた。三人という答えを予期していたところラップが四つ鳴った。その瞬間、つい最近幼い娘を亡くしたばかりのレッドフォード夫人はそのことを思い出して、その場に泣き崩れた。
 そうこうしているうちに噂が広まって、フォックス家の周りには七、八十人ばかりの近隣の人達が集まっていた。大変なことになりそうなのでフォックス氏は、奥さんをレッドフォード夫人の家に、そして娘二人を別々に他家に泊まらせるよう手配した。そのことが、後に重大な意義をもつことになる。
 さて、集まった人達全員に家の中に入ってもらい、それまでの事情を説明してから、フォックス氏はその「霊」と思われる発信者との交信を進める上での符牒(ふちょう)を決めた。即ち「イエス」か「ノー」を求める形にすること、そして「イエス」の場合はラップを一つ、「ノー」の場合はラップなし、ということにした。
 この方法だと人名などの固有名詞の特定に手間が掛かるが、一つ一つ辛抱強く交信を交わしていくうちにおおよその真相が明らかとなってきた。それは次のような、殺人事件の絡んだミステリーもどきのものだった。
 その通信者は四、五十年前にその家に行商に来た時に金目当てに殺されてしまった。金曜日の夜のことで、三十一歳だった。殺人者はジョン・ベルという名の蹄鉄工で、当夜は妻と娘が遠出をしていて不在だった。自分の死体は地下室に運ばれ、十フィートの深さのところに埋められたという。
 そこまで分かった段階で、では地下室を掘ってみようではないかということになり、ぞろぞろと大勢で地下室へ行き、レッドフォード氏が土間のあちらこちらに立って「ここか?」と聞いて回ると、真ん中の辺りでラップがした。それまでと違って足でドスン、ドスンと踏みつけるような音だったという。
 早速そこを掘り始めたが、近くを小川が流れているせいか、水が激しく湧き出てきて、汲み出しても汲み出しても湧き出るので中止することになった。そして作業が再開されたのは、真夏になって小川の水が干上がるのを見届けてからだった。
 確かに、五フィート程掘ったところで厚板、木炭、石炭等が出土、その下から髪の毛と骨の一部が出てきた。専門家に鑑定してもらったところ、人間のものと判明したが、遺体そのものは出てこなかった。