前節の見出しを「半世紀後の結末」とした。確かに霊的現象の絡んだ「事件」としては一件落着した訳であるが、実はその空白の五十年間に、霊界側で計画した本来のプログラムが着々と進行していたのである。

 聴聞会

 話を1848年の四月に戻そう。
 前日の三月三十一日の話題は瞬く間に広がって、明くる四月一日にはフォックス家の周りに二百人を越す野次馬が押し寄せた。その中には心ない人もいて、好き勝手な憶測を述べ合った。当然のことながら悪魔の仕業だと息巻く者もいて、フォックス夫人はその心労で、僅か一週間で髪が真っ白になったという。
 騒ぎの大きさにロチェスター市当局も真相究明の為の調査委員会を設置し、フォックス夫妻、レッドフォード夫妻、その他を呼んで証言を求めた。中でも注目されたのはフォックス夫人の証言で、事件当日の様子を細かく述べ、それをフォックス氏が追認する形になっている。肝心な部分は既に紹介してあるので、ここでは夫人の率直な心境を告白した部分を訳出しておく。


 ・・・・私は幽霊屋敷とか超自然現象とかを信じているわけではありません。この度のことで大騒ぎを起こしてしまったことを申し訳なく思っております。それは私達一家にとっても大変迷惑なことでございます。この家に移り住んだことが私共の不運だったのでございます。
 しかし、真実は知って頂かねばなりません。その為の証言は喜んで致しますし、是非させて頂きたいのです。ラップの原因は私には説明出来ません。が、確信をもって言えることは、そのラップが今申し上げた通りに繰り返し聞こえたということです。
 今朝(四月四日)もまた聞いております。子供達も聞いております。
 私は以上の陳述が改めて朗読されるのを聞いて、その内容に間違いないことを保証し、必要とあれば喜んで宣誓する用意があることを確約致します。

 当日はフォックス氏も出席していて、夫人の証言が読み上げられるのを聞いた後、次のような声明文を書いている。

 私は妻マーガレット・フォックスによる証言を聞き、さらに目を通した上で、その内容が詳細な点に至るまで真実であることを証言致します。妻が語ったラップは私も聞いております。私達からの質問に対して妻が述べた通りの返事が返ってまいりました。
 妻が述べたこと以外にも様々な質問をしておりますが、やはり的確な返事がラップで返ってきました。同じ質問を繰り返したこともありますが、同じ返事が返ってまいりました。そこには何一つ矛盾は見出しませんでした。
 そのラップの原因については少なくとも自然な手段は思い当たりません。何かが、或は何者かが、どこかに潜んでいて出しているのではないかと思い、家中のあらゆる場所を捜査してみましたが、その謎の解明に繋がるものは何一つ発見出来ませんでした。
 それがどれほど混乱と不安を生み出したか知れません。これまで何百人という方々が私の家を訪れています。その為に日常の仕事が手につきません。一日も早く、自然現象であれ超自然現象であれ、とにかくその原因が解明されることを期待しております。
 地下室の発掘も、水が引き次第再開されるでしょう。それによって、そこに埋められたとされている人体の痕跡があるかどうかの確認が得られることでしょう。もし発見されれば、その原因は超自然的なもの以外には有り得ないとの確信が得られるものと信じます。
                                         (署名)