ル・アーヴル港の若き水先案内人で、二十歳の時に亡くなった。
 ささやかな商売を営む母親と一緒に暮らしていたが、母親を本当に大切にし、細々と世話を焼いた。きつい仕事をして得た収入で家計を助け、キャバレーに行くようなことは絶えてなかったし、この職業に特有の暴飲暴食からも免れていた。というのも、お金を無駄に使わずに、敬虔な目的の為に使おうと心掛けていたからである。仕事をしている時以外は、店で母親を助ける為に精一杯働いた。少しでも母親の負担を取り除きたかったからである。
 大分前から病気にかかっており、自分が死ぬことを自覚していたが、母親に余計な心配と負担をかけたくなかった為に、それを自分の心に秘め、一人で苦しみと戦った。欲望の燃え盛る年頃に、悪しき環境下で働いていたにもかかわらず、持ち前の性格の良さと、尋常ならざる意志の強さによって、清い生活態度を守った。敬虔な信仰心を貫き、その死はまさしく模範的なものであった。
 死の前夜、彼は、母親に、「自分はこれから眠るので、少し休むように」と言った。
 母親は、うとうとする中で、あるヴィジョンを見た。彼女は大きな部屋の中にいた。そこには小さな光の点があって、その点は徐々に大きくなっていった。やがて部屋中がその強烈な光で照らされ、その光の中から息子の姿が抜け出し、燦然と輝きながら、無限の空間へと昇っていったのである。彼女は、息子の死が近いことを悟った。事実、その翌朝には、息子の美しい魂は既に地上を去っていた。
 息子の行状をよく知り、また、母親とも親しかったある家族ー彼らは霊実在主義協会のメンバーであったーが、息子の死後少しばかり経ってから、息子の霊を招霊しようと考えた。すると招霊をするまでもなく、息子の霊が自発的に降りてきて、以下の霊示を送ってきた。

 「私が今どういう様子なのか知りたがっているようですね。ああ、私は今、本当に幸せですよ。本当に幸せなのです。地上での辛い経験や苦悩は何ということもありません。というのも、それらは墓の彼方では祝福と幸福に変わるからです。
 ああ、あなた方には幸福という言葉の本当の意味は分からないでしょうね。澄み切った意識状態で、義務をしっかり果たした奉仕者としての自信に満たされて、しかも同時に喜びにも満たされて、全ての全てである主の同意を求めつつ、主のもとに還っていく時、『地上で幸福と呼んでいたものなど、全く何ということもなかった』ということをしみじみ知るのです。
 ああ、皆さん、死後がどうなるかを知らなければ、人生とは辛く困難なものです。しかし、これは誓って申し上げますが、もしあなた方の人生が神の法に適ったものであったならば、死後に待っているのは、想像を絶する報いなのです。それは、地上での苦悩や、あなた方が天の蔵に積んだと思っていた富を、遥かに遥かに凌ぐものであるのです。
 ですから、どうか、善きことを為し、慈悲の心で生きてください。慈悲ということを多くの人は知りませんが、言い換えれば、思いやりということです。どうか隣人を助けてあげてください。『人にこうしてもらいたい』と思っている以上のことを、人の為にしてください。そうすれば、心が豊かになり、人から思いやりを示されるようになるでしょう。
 どうか、私の母を助けてください。可哀想なお母さん、お母さんのことだけが唯一の心残りです。天国に還るまで、まだまだお母さんには試練が残っています。
 それでは、さようなら。これからお母さんを見に家に帰ります」

 霊媒の指導霊からのメッセージ:「地上にいる間に経験する苦しみは、必ずしもその全てが罰であるわけではありません。神の意志に従って、地上で使命を果たそうとする霊は、丁度、今霊示を送ってきた若者のように、喜んで数々の試練に耐えます。というのも、それらは償いの意味を持っているからなのです。霊界に還り、至高者の側で眠ることによって、彼らは再び力を取り戻し、神の栄光を実現する為の、全てに耐える力を得るのです。
 この若者の今回の人生における使命は、確かに輝かしいものではありませんでした。しかしながら、目立たぬものであったが故に価値がなかったといえば、決してそうではないのです。決して慢心しないという生き方を貫いたからです。
 彼はまず、家庭にあって、母親に対し、感謝の気持ちを示す必要がありました。さらに、悪しき環境にあっても魂を純粋に、高貴に保ち、強い意志によって、あらゆる誘惑に耐える必要があったのです。まず優れた資質があってこそ、そうした試練に打ち勝つことが出来るのですが、その意味で、この若者の生き方は、後から来る者達への大きな贈り物となることでしょう」