私の父は他界後「なぜ人間は死を怖がるのだろうか。寝るのは少しも怖がらないくせに」と私に言ったことがある。大抵の人間は睡眠と死とは何の共通点もないかに考えているが、実際には似通ったところがあるのである。
 睡眠中、幽体は肉体の少し上あたりに位置しているが、両者は魂の緒で繋がっている。この『紐』は電圧の実験で見られる二つの電極を繋ぐ長い連続的な閃光とどこか似ており、銀色の輝きをしているので、『銀の紐』(シルバーコード)と呼ばれることがある。朝、目が覚めた時に幽体が肉体と合体する。
 死に際しても幽体が上昇するが、肉体機能の停止によってシルバーコードが自然に切れ、幽体はその本性に相応しい場所へ赴くことになる。その際、大抵指導霊が付き添い、死後の環境条件に適応する手助けをする。
 よく寝入りばなに落下する感じ、或は『ベッドを突き抜けて落ちる』ような感じを体験する人が多い。これは、今述べた幽体が上昇しつつある時に何かの邪魔ー例えば大きな音などーが入って急に肉体に引き戻される。それが落下の感じを覚えさせるのである。
 これでお分かりの通り、地上の人間が意識的に幽体と離脱している間は死者の霊とよく似た状態にあると考えてよい。その間の肉体はごく普通の睡眠状態にある。後で叙述する私の体験が証明するように、少なくとも私の場合はそうである。
 こうしたことが一般の常識となってしまえば、私の父と同じように「なぜ人間は死を怖がるのだろうか」という疑問が、真実味をもって感じられる。