私の指導霊が、ある霊媒を通じて、霊界旅行を面白半分にやってはいけないーつまり背後霊の付き添いなしで勝手にやってはならないと忠告してきた。これにはそれなりの理由があった。幽体離脱を予感し、準備がなされつつあることを感じ取っているうちに突如中止されたことが何度かあった。ある時は、いよいよ離脱の状態に入り、間違いなく離脱しているのであるが、どこかしら不安がつきまとい、霊界へ行かずに寝室の中を漂っていた。やがて階下の店へ下り、カウンターの後ろに立った。なぜか辺りの波長が低く陰気で、全体が薄ぼんやりとした感じがする。かつてそのような雰囲気を体験したことがなかったので、もしかして離脱の手順を間違えたのかと思っていた。
 すると突然、邪悪で復讐心に満ちた念に襲われたような気がした。その実感は霊的身体をもって感じるしかない種類のもので、言葉ではとても表現出来ない。とにかく胸の悪くなるような、そして神経が麻痺しそうな感じがした。その念が襲ってくる方角を察して目をやると、二十ヤード程離れたところに毒々しい、すすけたオレンジ色の明かりが見えた。その輝きの中に、ニタニタと笑っている霊、憎しみを顔一杯表している霊が見えた。そして私が存在に気づいたことを知ると、咄嗟に思念活動を転換した。
 すると代わって私の目に入ったのは骸骨、朽ち果てた人骨、墓地などが、幽霊や食屍鬼、吸血鬼、その他地上的無知とフィクションの産物と入り乱れている光景だった。
 言ってみれば『パートタイムの幽霊』である私は、その光景をバカバカしい気持ちで見つめていた。すると急に蛇口を止められたみたいに思念の流れがストップして、その光景が視界から消滅した。その後しばらくカウンターの側に立っていたが、その時受けた増悪の念がつきまとい、不快でならないので、その夜はそのまま肉体に戻った。
 戻ったベッドの中で私は、今のは霊界のならず者の集団であると判断した。そこが死後の世界であることを知っており、その上で、何百年も何千年もそこにたむろして、これからも自分のやっていることの無意味さに気づくまで、そんなことばかりしていることであろう。こういう集団が一旦出来てしまうと、そこから脱け出て進歩していくということは極めて困難である。仲間の憎しみの念がそれを阻止するのである。
 それにしても、その邪霊集団が演出してみせた古めかしいお化け屋敷の現象にはいささか驚かされた。何度も繰り返してやっているらしく、地上の無知な作家が幽霊話の中にお決まりのように使用しているアイデアが全部その中にあった。
 愚かしい概念も何世紀にもわたって受け継がれてくると、各国の人民の精神に深く刻み込まれていく。『未知なるもの』への恐怖心もその影響もその一つである。暗闇を好み地上の適当な場所を選んで、そうした低級霊がたむろして、潜在的な心霊能力でもって地上の人間に影響を及ぼす。彼らが集団を形成した時の思念は実に強烈で、幽霊話に出てくるあらゆる効果を演出することが出来る。未知なるものへの恐怖心も手伝って、そうした現象は血も凍るような恐怖心を起こさせる。
 先のならず者の集団は実は下層界のチンピラ程度のもので、他にもっと強烈な攻撃手段で襲ってくる邪霊集団がいる。背後霊から勝手な旅行をいましめられて間もない頃、私はそうした強力な邪霊集団に取り囲まれたことがある。幸い背後霊団が間に入ってくれて事なきをえたが、一時はまるで電気に触れたように私の幽体が痺れを感じた程だった。
 初め私はその一段の中に少年の霊がいるように思ったが、そのうち顔をよく見ると小人の霊だった。その矮小な身体は精神構造のせいである。その集団の親分は紫がかった深いシワのある肌をした面長の普通の大きさの身体をしていた。やがて別の霊的波長を受けて私はその男が地上で実業家だったことを直感した。
 そうやってならず者に囲まれているうちに突然、まるで巨人の手のようなものが私の身体をつまみ上げてくれた。ところが敵もさるもので、そうはさせまいと私の身体にしがみついてきた。その時は既にしびれも取れていたので必死にもがいて抵抗した。そしていささか狂暴になっていた私は、丁度私の顔のところにきた腕に噛みついた。けっこう固さがあり、まるでゴムを噛んだような感触がした。
 こうして私を中心にして争っている一団は、実は団子状になって弾力性のある一本の紐に乗って私の肉体へ向けて運ばれているのだった。そしてついに肉体と接触した時、まるで爆発したように火花が散るのが見えた。私も驚いたが、同時に助かったと思った。そして結局私の二つの身体がいきなり合体した時に生命力が強化され、それによって保護力ないし反発力をもった『場』が周りに出来上がったのだという印象をもった。同じようなことを霊界での『事故』に関連して体験しているので、後でそれも述べるつもりでいる。
 その日の恐ろしい体験の回想も天井に大きな青銅の盾が出現したことで止まった。途方もなく頑丈で固い感じがした。それまでの美しい浅浮き彫りも有り難かったが、この特殊な顕現も異常な体験の後だっただけに有り難かった。それも私にとって霊的教訓の一つだった。