ある時沈んだ雰囲気の場所へ連れて来られた時、少し離れたところを一人の男性が通りかかった。そして私の方を向いてきさくな笑顔を見せて手を振るので、私もつい手を振って挨拶した。するとその男は一人の女性と一緒に私の方へ近づいて来て『あんたはこの女に用があったんじゃないかな?』と言う。
 私はその女性とは何の縁もないので首を横に振った。が、男は『いや、用があるはずだ』と言い張るので、私はおかしいと思って男の魂胆を探り、すぐにピンときたので、『いや、申し訳ないが、そんな女には会った覚えはないな』ときっぱり言った。すると男は肩をすぼめる仕草をして二人で去って行った。
 しばらくは煙に巻かれたような気持ちだったが、そのうち指導霊が、あの男は地上で売春婦斡旋業者だった者で、連れの女の稼ぎで暮らしていたことを聞かされた。なるほどと思った。彼らは霊界の『海千山千』で、本心を巧みに隠す術を心得ている連中である。私ももう少しでまんまと引っかかるところだった。