地上とそっくりの場所に関連した初期のことの体験に次のようなものがある。ある時気がついたらロンドンとおぼしき通りにいた。直観的に妻に会えるような感じがすると同時に、その通りの端にある家に妻がいそうな気がした。すると意識がはっきりしてきて、嬉しさを覚えて、そこの光景が透き通るように鮮明に見えてきた。
 建物は1850年代のスタイルで、この通りの端に『グレンジャー通り』と記したプレートが見えた。いよいよその家の入り口まで来ると妻の方からドアを開けてくれた。再会を喜び合い、応接間でしばらく語り合っていると、妻が真剣な顔で『あなた、もう時間だわ』と言った。私はもう少しいたかったので妻の手を取って『まだいいよ』と言ったが、いつものように、どうしようもない法則でベッドへ連れ戻されてしまった。
 それから二、三日して私はある交霊会に出席したところ、正面の席にいた霊媒にある霊が憑依してきて、身体を前屈みにして『私はあなたが奥さんにお会いになった時に同じ通りにいた者です』と私に言った。
 交霊会が終わってから私は霊媒に、あの霊は何者ですかと尋ねると『あの霊はよく私に憑依してくるのです。ロンドンのオールドケントロード付近に住んでいた方で、誰かの結婚式で酔ってしまい、道路を横切ろうとしているところを消防自動車にはねられたのです』と語ってくれた。
 家に帰ってからロンドンの市街帳を開いてみたら、確かにオールドケントロードの近くにグレンジャー通りというのがあった。私はいささか興奮を覚えた。その通りと、妻と会った家はきっと地上にもあるはずだと確信していたからである。同時に私はプレートに記された通りの名の字体も覚えていたので、次の日曜日に車でその通りへ行ってみた。
 が、来てみるとグレンジャー通りというのは見当たらず、だだっ広い土地があるだけで、その中に新しいレンガや建築用材が積み込まれていた。近くの店へ行って尋ねてみたところ『それならその空き地にありましたよ。新しくアパートを建てる為に、少し前に取り壊されたんです』と言う。私は『霊界にはまだその通りがありますよ』と言うわけにはいかなかった。