一、二年前に何度か続けざまに、他界したばかりでまだ目覚めていない霊に関わる体験をした。死後の目覚めに要する時間は個人によって不思議なほど異なるもので、直ぐに目覚める人と信じられないほど長期間かかる人とがいる。
 ある時、離脱して意識が戻ってみたら妻と一緒にベンチに腰掛けていた。二人で話をしているうちに私は何とはなしに『死』のバイブレーションを感じた。非常に不快な感じだった。それを身近に感じるので何となく振り返ってみると、すぐ後ろに男性が横たわっている。見つめているうちに身動きが始まり、やがて目を開いた。私はすぐさま立ち上がって近づき、手を取って立たせてあげた。そして二、三歩歩かせてあげたところへ、近くで待機していた指導霊が来ていずこかへ連れて行った。私は内心喜びと満足感を覚えた。
 別の日の体験で、やはり妻と共に数人の無意識状態の子供をある部屋へ運んだことがある。衣服は大人の場合と同じく『普段着』だった。どうやら幽体は地上時代に精神に焼き付いた記憶のうちの最も強烈なものを自動的に纏うようである。その中の一人はくる病のように頭と首が胴にめり込んでいた。が、そういう子の場合でも幽体は正常に復して意識もちゃんと戻る。
 その子供達からも、先の男性と同じ放射物、いわゆる『死のバイブレーション』を感じた。そのうちの一人の女の子を抱いて運んでいる途中で、私の腕の中で動きを見せた。思わず妻に『おい、この子が動いたよ』と叫んだ。とっさに私はその子を私の肩まで持ち上げ、片方の手で背中をさすってやった。するとすぐに意識を取り戻し、『お水をちょうだい』と私に言った。
 こうした、いかにも子供らしい自然な目覚め方をしたのを見て私は、魂の奥底からの喜びを感じた。そしてその子を部屋で介抱に当たっている女性に手渡した。私はこの子を『お亡くなりになりました』と宣告したのは一体どこのどんな医者だろうと思い、同時に、この子を失ってさぞかし悲嘆に暮れているであろう両親のことを思いやった。
 こうした仕事に携わっている霊界の人達は、子供達が自分達の介抱で目を覚まし、地上より遥かに恵まれた状態で新しい生活を始めるのを見て、言いようのない幸福感を味わっている。が、その一方では、地上の両親がそうした死後の我が子の身の上について何も知らずに、ただただ気も狂わんばかりに取り乱していることを思いやって、私は悲しさを禁じ得ない。というのも、彼らにはどうしてあげることも出来ないー両親が自らの力で求め、そして見出していくしかないからである。
 幼い子の世話をするのは子供好きの人達である。世話をしながら折を見て地上の両親や兄弟、姉妹のところへ連れて行って地上的情緒を味わわせることもする。地上的な喜びも悲しみも魂の成長にとって必要だからである。全てに埋め合わせの原理が働く。短い人生にもそれなりの埋め合わせが必要なのである。
 以上のような体験を、霊媒をしている友人を通じて確認したことがある。他界してくる人間の世話をしている人がその霊媒を通じて次のようなメッセージを送ってきた。
 『あなたは霊界の施設へよく来られて、霊波による介抱の様子をご覧になっておられますね。霊波を当てていると幽体が落ち着かなくなり、やがて動き始め、そして目を覚まします』
 目覚める時の様子はその通りなのだが、私は霊波を当てていることには気づかなかった。さらにその霊が言うには、私が妻と共に仕事をしていることには、陽の効果と陰の効果とがあるという。私にはよく理解出来ないが、電気的な作用があるらしいことは分かっている。