スピリット「秘密は教えん。俺自身のことは一切喋るつもりはない。俺の名前も、牧師の名前も」
博士「ここにいる人達は、みんな、あなたの味方だということが分からないのですね。あなたが知らずにいる大切なことを教えてあげたいのです。何度も言うように、あなたはもう肉体を失ってスピリットとなっているのです。そのことがあなたには理解できないのです」
スピリット「肉体を失ったということは、いくつも身体があるということだ」
G氏「二つ以上の身体をどうやって持てるのですか」
スピリット「それは知らん。が、他の身体を使って楽しかったよ」
G氏「『他の身体』をどうやって見つけたのですか」
スピリット「それは知らん。どうでもいいことさ」
G氏「ある時は男になり、ある時は女になるということは、どういうことでしょうね?」
スピリット「あまり深く考えたことはないね。自分でも分からん」
G氏「あなたをここへ連れてきたのは誰ですか」
スピリット「あいつらさ」
G氏「誰のことでしょう?」
スピリット「知らんね。俺は来るつもりはなかったのに、来させられたのさ。今度だけだぞと言って、来てやったんだ」
G氏「以前にも来たことがあるのですか」
スピリット「時々な」
G氏「誰が連れてきたのですか」
スピリット「知らんと言ってるだろう」
G氏「よくご覧になってみてください。あなたを連れてきた人の姿が見えませんか」
スピリット「知らんのだから、どうでもいいことさ」
G氏「私が前に一度、あなたに話しかけたことがあるのを覚えていますか」
スピリット「あるかもしれんな」
博士「今の方(G氏)が誰だか気づきませんか。以前は友達だったはずですよ」
G氏「以前会ったことのある人がここにいませんか」
スピリット「知らんね。あの電気を頭に受けて、ひどく痛かったぞ。誰でもいいからぶん殴ってやりたい気分だ」
G夫人「ここへはどうやって来られましたか」
スピリット「そんなこと、余計なお世話だ。俺は癇癪持ちなんだ。稲妻みたいにカッときて、雷のように落ちるんだ」
G夫人「人の身体の中に入ってる時でも、癇癪を起こすのですか」
スピリット「そうさ。俺は癇癪持ちなんだ。どうしてカッとなるかは自分でも分からんのだが、とにかく何もかも腹が立ってしょうがないんだ。それで、じっとしておれずに、あっちこっちと歩き回らずにいられんのだ」
G夫人「ある場所にじっとしていたくてもダメなんですね?」
スピリット「ダメだな。歩き回ってないと気が済まんのだ。腹が立ってしょうがないんだ」
G夫人「自分で自分がコントロールできないのですね」
スピリット「何だか知らんが、とにかく腹が立って、行きたくなくても、あちこち歩き回ってないと気が済まんのさ」
G夫人「その腹が立つ性分を直したいとは思いませんか。(博士を指差しながら)この方はお医者さんです。あなたの症状についてよくご存知ですよ」
博士「言うことを聞いてくださるのであれば、力になりますよ」
スピリット「些細なことでムシャクシャしてきて、ついカッとなるんです。なぜだか、自分でも分からんのです」(少し大人しくなる)
博士「下らないことで支離滅裂になるのが抑え切れないのですね」
スピリット「物事が自分の思い通りに運ばなくて、それがまず不愉快なのです。時々自分が自分でなくて、半分が他人になったような気がして、ムシャクシャしてくるのです」
博士「それは、あなたが生身の人間に取り憑いて、その人の身体を半分使っているからです。あなたの肉体は死んだのですが、あなた自身は死んでいないのです。肉体と自分とは別のものなのです。その肉体の方を失っているのですが、霊的身体が肉体のように思えて、それで死んだことに気がつかないまま人間界を歩き回っているうちに、霊的感受性の強い人に乗り移ってしまうのです。あなたは勝手にその人の身体を使おうとするのですが、その人にはその人の意志があります」
スピリット「あの機械にも腹が立ちます」
博士「機械類はお嫌いですか」
スピリット「嫌いだね。ぶっ壊してやりたくなる。あれにもムシャクシャする」
博士「自動車のことですね?」
スピリット「はて、それは何ですか。馬がついていなくても走る、あの機械のことですか」
博士「自動車というものをご覧になったことがないのですね?」
スピリット「ブルブル、ブルーンという音を出して進む機械のことですか」(腕をぐるぐる回す)
博士「まだ自動車のない時代の方ですね?今の大統領は誰ですか」
スピリット「知りません。何年も新聞を読んでないもんで・・・」
博士「マッキンレー大統領でしたか」
スピリット「いや、クリーブランドです」
博士「シカゴ国際見本市のことを覚えていますか」
スピリット「知りません」
博士「お住まいはどこでしたか」
スピリット「カンザスです」
G氏「カンザスのHですかNですか」(G氏は若い頃、カンザスに住んでいた)
博士「この方(G氏)といろいろ話してごらんなさい」
G氏「Gーという家族のことをご存知ですか」
スピリット「ああ、きれいな豪邸に住んでいました」
G氏「じゃあ、Nに住んでたわけですね?」
スピリット「いや、そこより少し郊外です。私はあちこちでヘルパーをしていました。一つの家に長くはいませんでした」
G氏「農家でも働きましたか」
スピリット「ええ、馬がいれば・・・。あのチョロチョロするやつ(車)は乗りたくないね」
G氏「機械の方が馬よりも遠くまで行けますよ」
スピリット「私は、空気に触れるのが好きでね。あんな機械じゃ窓が開けていられないじゃないですかー閉じ込められちゃって・・・」
G氏「病気をしたことがありますか。それとも事故にでも遭いましたか」
スピリット「よく分からんのですが、頭が変になったみたいで・・・。何が起きたのか、ほんとに知らんのです。よく癇癪を起こすとこをみると、何かあったんでしょう」
G氏「Gさんの家のお子さんで誰か覚えている人がいますか」
スピリット「噂は耳にしていました」
G氏「当時あなたはおいくつでしたか。R君と同じでしたか」
スピリット「あのガッチリした体格の男のことですね?」
G氏「年齢は一緒でしたか」
スピリット「いや、いや、彼の方がもう一人(G氏)よりも元気で、よく遊んでいました。もう一人は勉強家でした。一緒にいても、すっといなくなりました。いつも本を持ち歩いていたから、牧師か弁護士かなんかになるつもりなんだろうと思ってました」(その通りだった)
G氏「歌を歌ったことはありますか」
スピリット「誰がですか」
G氏「その『もう一人』の男です」
スピリット「彼のことはよく知りません。私はただのヘルパーでしたから・・・」
G氏「その二人の少年の家で働いていたわけですか」
スピリット「いえ、南西地方の農場で仕事をしてました。農場は家から遠く離れたところにありました。丘をのぼって、さらに下ったところです」
G氏「W市の方角ですね?」
スピリット「そうです」
G氏「そこで事故に遭ったのでしょう?」
スピリット「覚えていません。頭部に何かが当たったことは覚えています。脱穀機に大勢の人が群がって仕事をしていましたー『脱穀仲間』ってヤツですよ」
G氏「そこで何か、大怪我をされたに違いありません」
スピリット「脱穀の仕事中にですか。頭部に何か当たったのでしょうか」
G氏「何かで負傷して、それがもとで亡くなられたのですよ」
博士「多分あなたは、眠ったようなつもりでおられたのでしょう。その時に肉体を失ったのです。普通はそれを『死んだ』というのですが、あなたという個性は死んでいないのです」
G氏「トムを知ってますか(G氏に憑依していたもう一人のスピリット)。私の親友です」
スピリット「ええ、ここに来てますよ。あなたを助けにきたと言ってます。一体、どういう具合に助けようというのですかね?」
G氏「トムに聞いてごらんなさいよ」
博士「なぜこの方(G氏)を助けようというのか、なぜ助けが必要なのか、尋ねてみてください」
スピリット「『お前、出て行くんだ!』なんて私に言ってます」
博士「わけを聞いてごらんなさい。真相が分かりますよ」
スピリット「(トムに向かって)なんでそんなことを言うんだ。正直にわけを言ってみろよ!なんだと?この俺が?冗談じゃない!デタラメを言うな!(博士に向かって興奮気味に)トムのやつ、この私があの人(G氏)に何年もたかってたなんて言ってます!」
博士「ピンとこないかもしれませんが、実はそのとおりなんですよ」
G氏「トムもそうだったんです。彼も、私にずいぶん迷惑をかけてくれましたが、今は友達です。あなたも同じです。これからは仲良くしましょうよ」
スピリット「なぜ、あんなにムシャクシャしたのでしょうね?」
博士「頭に傷を負った際に、精神的な錯乱が生じたのでしょう」
スピリット「トムのやつ、この俺を取り除くのを手伝ったなんて言ってやがる。覚えてろ!なんでこの私を取り除きたがるのでしょうね?」
G氏「そうすることで、あなたも自由になれるです。彼は、我々の仲間なのです。一緒に仕事をしているのです。あなたも自分の身体をもつことになります。そうすれば『取り除かれる』心配もいりません」
スピリット「あなた達のおっしゃっていることがさっぱり分かりませんが・・・」
博士「説明しましょう。私の言うことがどんなにバカバカしく思えても、反抗的になってはいけませんよ。ありのままの真実を申し上げるのですからね・・・」
スピリット「いい加減なことを言ったら承知しませんよ!」
博士「あなたは、何年か前に肉体を失ったのです。今年は1922年ですが、いかがですか」
スピリット「1892年でしょう」
博士「それはクリーブランドが大統領に返り咲いた年です。その年から今年まで、あなたはずっと『死者』になっておられるのです。ただし、本当の死というものはないのです。精神と肉体とはまったく別物で、死ぬのは肉体の方です。精神とか心と言われているものは死なないのです。あなたは今、あなた自身の身体で喋っているのではないのですよ」
スピリット「私の身体ではない?」
博士「違うのです。あなたは私の妻の身体で喋っておられるのです。妻の身体はスピリットが自由に使って喋れるような構造になっているのです。それで、こうしてあなたのようなスピリットと話を交わして、色々と調べることが出来るわけです。スピリットの中には事情が分からないまま人間に取り憑いて、その人の精神を混乱させている者がいるのです。あなたの場合も、この方(G氏)に取り憑いていた為に、あなたのムシャクシャがそのままこの方をクシャクシャさせているのです」
スピリット「ほんとですか」
G氏「あの機械(車)にはよく乗ったのでしょう?」
スピリット「乗りました。が、嫌いです、あれは」
博士「あの機械のことを教えてあげましょう。1896年に自動車というものが発明されたのです。馬無しで走るのです。それ自身がパワーを出すのです。今では何百万台もあります」
スピリット「馬はどうなるのですか」
博士「今は使いません。自動車というのは実に便利なもので、百マイルを一時間で走れるのです。もっとも、平均すると一時間に二十マイルないし二十五マイルですね」
スピリット「そんなに速いものには乗りたくないのですね 
博士「一日中突っ走れば二百マイルから三百マイルは行けます。そういう機械が、あなたが肉体を失った後から発明されているのです。それに、空を飛ぶ機械まで発明されています。電線なしで通信することも出来るようになっています。海を越えて話が出来るのです。そういった素晴らしいものが、あなたが他界されたあと発明されているのです。今、あなたは、カリフォルニアにいらっしゃることをご存知ですか」
スピリット「意識が薄れていくような感じがします」
博士「お名前をおっしゃるまでは、しっかりしてくださいよ」
スピリット「名前は知りません。頭が混乱していて・・・。少しの間、そっとしとしてください。思い出しますから。いろんな名前がごっちゃになって、自分の名前が分からなくなりました」
博士「見回してごらんなさい。お母さんがお見えになってるかもしれませんよ」
スピリット「母が私を呼んでる声を一度聞いたことがあります。そう、私の名前はチャーリーだったことがあるし、ヘンリーだったことがあるし、男だったり女だったり、どれを言えばいいのか・・・。本当の名前を呼ばれてからずいぶんになるので、忘れたみたいです」
博士「トムに聞いてごらんなさい」
スピリット「フレッドだと言ってます。そうだ、フレッドだ!」
博士「姓も聞いてごらんなさい」
スピリット「自分の名前を忘れるとはね・・・。余程のことがあったのでしょうね」
博士「お父さんのことを人は何と呼んでましたか。仕事は何をなさってましたか」
G氏「農業をなさってたのじゃないですか」
スピリット「農業ではありませんが、いくらか土地を所有していました。父はドイツ人でした」
G氏「メノー派教徒だったのでしょうか」
スピリット「いえ。ドイツから移住してきました。それにしても、自分の名前が思い出せないとは、私もどうかしてますね」
G氏「トムに尋ねてみては?」
スピリット「場所と出来事を、あるところまでは思い出せるのですが、そこから先がダメなんです。フレッドという名は覚えてます。みんなそう呼んでいたので・・・」
博士「もういいでしょう。そのうち思い出しますよ。あなたはスピリットになっておられるのです。ここを出たら、高級霊の方達がお世話をしてくださいますよ」
スピリット「トムが、『安らぎの家』へ案内してくれるそうです。心配事が多く、疲れ果てていたせいで、何もかも腹が立って・・・。もうこれからは癇癪は起こしません。カッとなった後が、ひどくこたえました。自分の心が抑えられなくてムシャクシャしていました。酷いことを口走ってしまって申し訳なく思っております。意地を張って口答えばかりしましたが、内心では分かっていたのです。
 トムが早く来いと言ってます。では、まいります。(G氏に向かって)トムが、あなたに迷惑をかけたことのお詫びを言わなくては、と言っております」
G氏「過ぎたことは過ぎたことです。お役に立てればいいのです」
スピリット「不愉快に思ってらっしゃるのでは?」
G氏「とんでもない」
スピリット「気が抜けたような感じです。どうしたらいいのでしょう?これではトムと一緒に行けそうにありません」
博士「それは、霊的な意識が芽生え始めたスピリットがよく体験することです。一時的な感覚です。霊媒のコントロールを失いつつある証拠です。トムとマーシーバンドの方達のことを心に念じてください」
スピリット「頭が少し変になってきました。気でも狂ったのでしょうか。医者を呼んでください。死んでいくような感じです」
博士「霊媒の身体から離れれば良くなります」
スピリット「医者を呼んでください。血が全部喉のところに上がってきて、息が出来ません!喉が詰まったみたいです。このまま寝入ってしまいそうです。寝ると良くなると医者はよく言いますが、このまま死んでしまうんじゃないでしょうね?」
博士「あなたはもうとっくにスピリットになっていることを自覚してください。その身体は他人のものです」
スピリット「思い出しましたー姓名はフレッド・ホープトでした。トムが、Gさんにたびたび腹を立てさせたことを許して頂くようにと言ってます」
G氏「許しますとも。こちらこそトムに感謝していると伝えてください」
スピリット「それでは失礼します」


 このあと指導霊のシルバー・スターが出てG氏にこう語った。
「ようやく彼をものにしました。これから病院へ連れてまいります。彼にはずいぶん手こずりました。あなたの磁気オーラに完全に入り込んでしまって、そこから引き離すのは、まるで肉を引きちぎるみたいでした。
 あなたの子供時代からひっついていて、自分の思うようにならないと、癇癪を起こしていました。こうして彼を解放したことで、あなたは別人に生まれ変わったみたいに感じられるでしょう。もう、イライラすることもありません。
 今、彼をお引き受けしましたので、もう大丈夫です。霊的に非常に衰弱していて、看病が必要です。一人ではほとんど動けない状態です。これまではあなたにおんぶされて生きてきたようなものですから、そのあなたから引き離された今、まったく力がありません。
 しかし、私達が面倒を見ますから、どうぞご安心ください」