孤児のまま他界したスピリット

●家族を知らないまま他界したケース
 地上時代に家族というものを知らないまま他界したスピリットがよく出現しているが、知識欲が旺盛なせいか、新しい生活環境に馴染むのが早いようである。


 1921年5月25日
 スピリット=ミニー・オン・ザ・ステップ(女の子)


博士「どこから来たんですか?」
スピリット「知りません」
博士「今まで、どこで何をしてたんですか?」
スピリット「それも分かりません」
博士「分からないでは済まないでしょ?自分が今どこにいるのか、どこから来たのかも分からないの?」
スピリット「分かりません」
博士「死んで、どれくらいになるの?」
スピリット「死んで?知りません、なんにも・・・」
博士「誰か『あなたはもう死んだのよ』と言った人はいませんか?」
スピリット「いません。あたし、あっちこっちを歩き回って、人に話しかけてるの」
博士「誰にですか?」
スピリット「手当たりしだい誰にでも。なのに、どういうわけか、誰もあたしの方を向いてくれないの。時々大勢の人の中に入り込んで、今度こそ全部の人をあたしのものにしたいと思ったり、壇の上に上がって『一体このあたしはどうなってるの?』って、大声で聞いてみるんだけど、みんな知らん顔をしているの。あたしだって一人前のつもりなのに・・・。だあれも相手にしてくれないの」
博士「そうなる前のことを思い出せる?」
スピリット「そうなる前?一人前だったわ。今は多分『除け者』なのね」
博士「『一人前だった』頃は、どこに住んでたの?」
スピリット「ずっと同じ場所よ。そのうち退屈しちゃって、横になって眠り続けたの。眠った後また出かけるんだけど、同じ場所をぐるぐる歩き回るだけで、少しも遠くへ行かないの」
博士「誰かついて来なかった?」
スピリット「目に入るのは、全部あたしを除け者にしている人達ばっかりよ。誰もあたしの方を向いてくれないし、心配もしてくれない。時々惨めな気持ちになったけど、また平気になるの」
博士「お母さんは?」
スピリット「知らないわ。お腹が空くことがあるけど、たまらなくなったら、誰でもいいからおねだりするの。貰えることもあるし、貰えないこともある。どこかの家の台所に上手く入れたら、食べるものを見つけて思い切り食べるの。食べ終わったら、また出歩くの」
博士「どこを?」
スピリット「どこでも」
博士「食べるものが手に入った時は、誰か他の人間になったみたいな感じがしない?」
スピリット「お腹が空く、だから何か食べるものを探すの」
博士「どこへ探しに行くの?」
スピリット「それが、とっても変なの。代金はいつも誰か他の人が払ってくれて、あたしは一円も払わない・・・本当に変なの。何を食べても代金を払ったことがありません。時々、あたしの欲しいものが出ないことがあるけど、仕方なしに頂くの。時々、ひどいものを食べさせられて気分が悪くなることがあります。出されたものが気に入らなくて、しかめっ面をすることもあります。思い切って食べる時と、ほんの少ししか食べないことがあります。それに、男になったり女になったりします(完全に憑依した時のこと)。
 自分がどうなってるのか、わけが分からなくなることがあります。どうしてこんなに変になっちゃったんでしょう?自分にも分かりません。人から話しかけてもらいたくて、歩き回って手当たり次第に話しかけるんだけど、誰も相手にしてくれなくて、ただ自分の声が聞こえるだけなの。たまには話し合ってる人の中に入り込んで、しゃがみ込んで、そして・・・・ああ、分からない!半分だけが自分になったみたいー誰か他の人になったみたいになります」
博士「年齢はいくつ?」
スピリット「年齢?知りません」
博士「自分の年齢が分からないの?」
スピリット「この前の誕生日の時は、十九歳だった」
博士「お父さんやお母さん、あるいはお姉さんはいるの?」
スピリット「いません」
博士「両親はどこに住んでたの?」
スピリット「父さんも母さんも知りません」
博士「あなた自身はどこに住んでたの?」
スピリット「父さんや母さんが今でも生きてるのかどうか、どこにいるのか、あたしは何も知りません。一度も会ったことがないの」
博士「どこかの施設にいたわけね?」
スピリット「あたしはホームで育ったの。大勢のお友達と一緒に」
博士「仲良しがたくさんいたのね?」
スピリット「いっぱい、いました」
博士「そこはどこだったの?」
スピリット「よく知りません。何か変なの。どうなってるんでしょう?とても変なの」
博士「きっとそうだろうね」
スピリット「人から話しかけられたのは、今日が初めてなの。あの美しい歌(交霊会を始める前にみんなで歌う歌)を聞いていると、知らない間にここに来ていました。あたしは浜辺の向こう岸へ行きたいと思って、どこだろうと思って見つめていたところでした」
博士「私達がそこへ連れてってあげますよ」
スピリット「気がついたら話せるようになってたの(霊媒に乗り移らされた)。これまでずいぶん永いこと、一人もあたしに話しかけてくれた人はいなかったわーこれだけは本当よ。あたしから話しかけると、いつも他の誰かが返事をするの。あたしは何も返事をすることがなくなったみたいだった。だって何を喋っても、誰も聞いてくれないんだもの。本当に変なの。あんな変なことってないわ。みんながあんまり意地悪だから、働いていた家から逃げ出しちゃったの」
博士「みんながどんなことをしたの?ムチでぶったりしたの?」
スピリット「そんなんじゃない。ある家で家事の手伝いをしてたの。お腹が空いたからです。もちろん期待されたほど上手に仕事は出来なかったけど、そこへ女の人がやってきて、あたしをホームから連れ出すと言ったの。あたしはそのままホームにいたかったのに・・・・。だって、ホームでは差別されないもの。もちろん辛いことはあるけど、一日中、叱られ通しより、マシよ。嫌なことも色々あるけど、楽しいこともあったわ。
 あたしを連れ出した女の人が最初に言ったのは、朝から晩まで聖書を読みなさいということでした。あたしはうんざりしちゃって、バイブルが大嫌いになっちゃった。お祈りもしなくちゃならないでしょ?膝が痛くなって歩けないほどだったわ。
 だって一日中ひざまずいて、バイブルを読むこととお祈りの繰り返しでしょ。動く時も立ち上がっちゃいけないの。膝で歩きなさいと言われたわ。それはみんな、あたしを救う為にさせてるんだって言ってたわ。それまでのあたしは本当の『良い子』ではなかったんですって。言う通りにしないと、とっても熱いところ(地獄)へ連れて行かれるんですって。ホームでもお祈りはしたけど、保母さんはとってもいい人だったわ。よくお祈りをして、神様を信じてました。
 その女の人に連れ出された時は十四歳でした。悲しかったわ。何を頂くにも、働いて働いて・・・・すると、あたしが言われた通りにしてないと言って、叱られ通しなの。つまり、お祈りとバイブルを読むことね。そんなことをしても何にもならないから、しなかったの。だって、ひざまずかないといけないでしょ。膝が痛くてたまらないから、その人の言うことが耳に入らないの。たまらなくなって転ぶと、もう大変なの。あたしの髪を引っ張って起き上がらせるの。そのくせ自分は膝にクッションを置いてるのよ。それなら何時間でも平気だわ。あたしのことをいつも罪深い女だって言ってた。すぐに疲れるからだって。
 長い時間ひざまずいていられなかったら、罪深い人間になるのかしら?あたしはよく分からないけど、そんなことをいつも真剣に考えたわーこれ、内緒だけど、こんなにお祈りを聞かされたら、神様の方が退屈するんじゃないかと思ったの(小さな声で言う)。疲れてウトウトすると、また髪の毛を引っ張って、ほっぺを叩くの。あの人は神様にお祈りをするくせに、していることは悪いことばっかりよ。言う通りにしてないと、悪魔に連れて行かれると言ってたけど、あたしは時々、この人の方が悪魔だと、本当にそう思ったわ。
 ひざまずいたままウトウトすると、すぐあたしの側にやってきて『神様、この悩みから私を救ってください。ああ、神様、私は心からあなたを愛しております』なんて言うの。いつも真っ先に自分のことをお祈りして、それからお嬢さん、お母さん、弟、お父さん、そしてお友達の順にお祈りして、最後に『ミニーのために』って、あたしのことを祈ってくれたわ。
 誰もあたしの本当の名前を知らないの。あたしは、お父さんの名前もお母さんの名前も知りません。みんなが言うには、あたしは上がり段の上(オン・ザ・ステップ)に置かれてたんだって。それであたしのことをミニー・オン・ザ・ステップなんて呼んだのね。そんな呼び方をされるのは、とっても嫌だったわ。上がり段の上で見つけたんですって。そして『ミニー』という呼び名を付けたの」
博士「あのね、あなたはもう肉体を失って、今はスピリットになっているのだよ」
スピリット「それ、何の話?あたしは女の子よ」
博士「今まであなたは、スピリットになってウロウロしてたんですよ」
スピリット「どういうこと?」
博士「あなたには、もう肉体はなくなったということです」
スピリット「死んだわけ?あたしは、もうずいぶん永いこと皿洗いをしてないし、髪の毛を引っ張られたこともないわ。あの人があんまり意地悪だから、あたし、あの家から逃げ出したの。遠くへ遠くへと逃げて、食べるものがないものだから、お腹がペコペコになっちゃった。お金もないし・・・」
博士「それからどうなったの?」
スピリット「どんどん遠くへ行くうちに道に迷ってしまい、お腹が空いてるものだから寝てしまいました。目が覚めるとあたりは真っ暗で、森の中にいました。ふと、あの人に見つかったら大変と思って、森の中を走ったり歩いたりしながら、どんどん進みました。それから、どこかで食べ物を貰わなくちゃと思ったけど、最初に見つけた家へは入りませんでした。お腹がペコペコのまま昼も夜も歩き続けたけど、大きな樹木と森以外は何もありませんでした。そうしているうちに寝てしまい、それきりその日のことは覚えていません(ここで死亡)。
 目が覚めると、身体が楽になっていたので、さらに歩き続けて町へ向かいました。ずいぶん歩いて大勢の人達がいるところへやってきたけど、誰もあたしの方へ目を向けてくれなかった。お腹はペコペコでした。
 それで、女の人がレストランに入るのを見つけて、その後をつけて入りました。一緒にごちそうを食べようとしたんだけど、その人が全部食べちゃって、あたしはホンのちょっぴりしか貰えなかった。その人はずっとあたしには知らん顔をしていました。レストランを出た後、また歩き続けているうちに、また誰かがレストランに入るのを見かけました。今度は何人かの人と一緒でした。一緒に頂いたけど、代金はみんなその人達が払ってくれました」
博士「『あたし』は、一体どうなったんだと思う?」
スピリット「分かりません」
博士「あなたは、誰かの肉体に取り憑いてたんですよ。スピリットとなって地上の誰かにつきまとっていて、その人の肉体を通して空腹を満たそうとしたんです。多分、あなたは森の中で肉体から離れたのです」
スピリット「あたし、とっても喉が渇いてました。食べるものはなんとか口に出来たけど、食べる度に喉が渇いていって、もう、バケツ一杯でも飲めそうだったわ」
博士「肉体を捨てたことに気づかずに、肉体の感覚だけが精神に残ってたのね」
スピリット「そうかしら?死んだのはいつのこと?あたしのこと、よく知ってるんでしょ?ここへはどうやって来たのかしら?」
博士「私の目には、あなたの姿は見えてないのですよ」
スピリット「あたしの両親も見えないのですか?」
博士「見えません」
スピリット「あたしは?」
博士「見えません」
スピリット「あたし、どうなっちゃったのかしら?」
博士「あなたのことは、肉眼では見えないのです」
スピリット「あたしの喋ってる声は聞こえるのでしょ?」
博士「それは聞こえます」
スピリット「声は聞こえても姿は見えないんですか」
博士「あなたは今、自分の口で喋っているのではないのです」
スピリット「ほんと?」
博士「手を見てご覧なさい。それ、あなたの手ですか」
スピリット「いいえ」
博士「ドレスはどう?」
スピリット「こんなの、一度も着たことがありません」
博士「あなたは他の人の身体を使っているのです」
スピリット「どこかの団体から頂いたんだわ。指輪もしてる!」
博士「その指輪はあなたのものではありません。手もあなたの手ではありあません」
スピリット「また眠くなってきちゃった」
博士「その身体を使うことを特別に許されたのです」
スピリット「あら!あそこを見て!」
博士「何が見えるのですか」
スピリット「よく分からないけど、女の人がいます。泣いてます」(母親)
博士「誰なのか、尋ねてごらんなさい」
スピリット「(驚いた様子で)あら、まあ、ウソ!」
博士「何て言ってますか」
スピリット「あたしは、その方の子供なんですって。あたしを置き去りにしたことを後悔してるんだと思うわ。でも、ホントにあたしのお母さんかしら?『まあ、私の愛しい子!』なんて言ってるわ。今日まで必死であたしを探し続けてきたんだけど、手がかりがなくてどうしようもなかったんですって」
博士「今はもう、お二人ともスピリットになってるんです。高級界の素晴らしいスピリットがお迎えに来てくださってますよ」
スピリット「その方は真面目に生きていたのに、男に騙されたと言ってます。教会に通っているうちに、男が結婚しようと言い寄ってきて、お腹に子供が出来ると、どこかへ姿を消しちゃったんですって。あたしを産んでから身体を壊して、あたしをホームの上り段に置き去りにし、それから不幸続きで、とうとう病気で死んじゃったんですって」
博士「お母さんに言っておあげなさい。お母さんもあなたと同じように、今はもうスピリットになったのよって。素晴らしいスピリットが、あなた達を救いに来てくださってますよ」
スピリット「母さん!おいでよ!許してあげるわ、母さん。もう泣かないで。これまでのあたしには母親がいなかったけど、今日からは母さんがいるわ。あたしをずいぶん探したって言ってるわ。それで誰かが、あたし達二人をここで会わせてくれたんですって。『きっと見つかりますよ』って言われてやってきたと言ってます。ほんとに見つかったのね。嬉し泣きしてもいいかしら?泣きたくなっちゃった。だって、あたしにも母さんが出来たんですもの」
博士「霊界でお二人の家がもてますよ」
スピリット「あたしの名前はグラディスというんですって。母さんの名前はクララ・ワッツマンですって」
博士「どこに住んでたんだろう?」
スピリット「セント・ルイスですって」
博士「霊界へ案内してくれる方が、ここへ来てくれてますよ」
スピリット「あれは何?まあ、インディアンの少女がやってくるわ。素敵な女の子よ」
博士「そのスピリットが、お二人に色々と素敵なことを教えてくれますよ」
スピリット「あら、母さん、そんな年寄りみたいな姿は嫌だわ!さっきは若かったのに」
博士「すぐに若くなりますよ。悲しんでる心の状態がそんな姿に見せているのです」
スピリット「あのインディアンの少女ーシルバー・スターと言うんだけどー母さんに手を当てがって『若いと思いなさい。そうすれば若くなります』と教えています。あっ、本当に若くなったわ!若くなったわ!じゃあ、あたし、母さんと一緒に行きます。忘れないで、私の名前はグラディスよ。ミニー・オン・ザ・ステップより素敵だわ。あたし達は、天国の神様のところへ行くのかしら?」
博士「霊界へ行くのです。そこへ行ったら、もっともっと素晴らしいことを学びますよ」
スピリット「シルバー・スターが『神はスピリットです。神は愛です。神はどこにでもいらっしゃいます』と言ってます。そして、博士に感謝しなくてはいけないって。ドクター・何でしたっけ?」
博士「ドクター・ウィックランドです。今、あなたは、私の妻の身体を使ってるんですよ」
スピリット「母さんは今は若くて奇麗です。若いと思ったら若くなるんですって。シルバー・スターがそう言ってます。いつかまた、ここへ戻ってきていいかしら?」
博士「大歓迎ですよ」
スピリット「あたしはもうミニー・オン・ザ・ステップじゃないことよ。グラディス・ワッツマンと覚えてね。皆さん、有り難う。これであたしも一人前になれたわ。ちゃんと名前がついて・・・。やっぱりいいな。あたしの『おじさま』になってくれないかしら?」
博士「そうだね」
スピリット「あたしのわがままを聞いてくださって、有り難う。さようなら」