●麻薬中毒を克服したスピリットの警告
既に紹介した元映画女優のオリーブ・Tは、その後何度か招霊会に出現して、人の為に役立つことの大切さを訴えると同時に、社会に蔓延している麻薬の恐ろしさを説き、一人の中毒患者のスピリットを救ってあげてほしいと依頼した。
 そのスピリットは地上でウォーレス・Rといい、よほど重症の中毒患者だったらしく、霊媒に乗り移らせても、ただうめき声を上げて身体を苦しそうによじるばかりで、何の質問をしても、まともな返事が返ってこなかった。
 そこで、やむをえず、いったん霊媒から引き離してマーシーバンドに預け、一週間後にもう一度招霊した。以下が、その記録である。


 1923年10月17日
 スピリット=ウォーレス・R

 前回同様に元気がなく、最初のうちは、喋ることさえ出来なかった。
博士「どなたでしょうか。目を覚ましてお話し願えませんか。病気のことは一切考えてはいけません。元気だった時のように話してみてください」
スピリット「(微かに聞き取れる声で)そう言われても、なかなか思うようには・・・」
博士「さ、頑張って!話せますから」
スピリット「もう少し理解を得る為に、もう一度ここへ来たいと思っていました。前の時は何が何やら分からなくて・・・。私は暗がりの中にいます。麻薬の習慣から脱け出そうとしながら、今も暗い闇の中にいます。魂にまで習慣が染み込んでしまったらしくて・・・・」
博士「以前、ここへ来たことがあるのですね?」
スピリット「あります。そんなに前のことではありません。その節は有り難うございました。でも、まだまだ力を貸して頂かねばなりません。麻薬の習慣を克服する為の力をお貸し頂きたいのです。
 私は死後の生命については、知識らしい知識はありませんでした。その日その日の生活を送るだけでした。死んだらどうなるかなどということは、微塵も考えておりませんでした」
博士「もともと、そういう高度なことに興味をもつ人はきわめて少ないのです」
スピリット「また、私が麻薬中毒だった時に、色々ご援助頂いたことにも感謝申し上げます。あの時も私に悪い習慣を克服させよう、そのための力を与えよう、と努力してくださっているのを感じておりました。どこかへ引き寄せられるような力を感じておりましたが、私が精神的に衰弱していて、それを意識的に受け止めることが出来なかったのです」
博士「私達は、あなたが邪霊集団に支配されていると判断して、サークルで祈念を集中したのです」
スピリット「衰弱しきっていて、そうとは気づきませんでした」
博士「もちろん、ご本人には理解できなかったでしょう」
スピリット「私は麻薬と縁を切りたい一心でしたが、だらしない私は、邪霊のなすがままにされていました。魂にまで染み込んだ習慣を克服する方法を教えてくれる人にも巡り会えませんでした。妻が他界してからは、麻薬との闘いで力になってくれる人がいなくなり、絶望的状態となりました。妻は、心の優しい、気高い魂の持ち主でして、死後も私のそばにいて、なんとかして救おうとしてくれたようですが、私がそれに応えることが出来なかったのです。
 死んで地上の環境が見えなくなると、私はしばらく、一種の睡眠状態に入りました。しかし、ああ、妻と子供達にどれだけ会いたかったことでしょう。また、どれほど麻薬との縁を断ち切りたかったことでしょう。が、それが出来ませんでした。苦しかったのです(苦痛に悶える様子)、本当に苦しかったのです。
 そんな私を救ってくれるところはないものかと求めているうちに、ここへ案内されました。本当に感謝しなければなりません。強さと力とを与えてくださいました。本当は、あの時、もっともっと皆さんの善意の想念の力を頂いておくべきだったのです。
 それでも、あの時以来、私はだいぶ元気になりました。まだ強さは十分ではありませんが、麻薬の習性を克服する方法を身につけました。その後霊界で見聞きしたことはまだまだ僅かですが、それでも、霊界というところが、いかに素晴らしいところであるかが分かりました。
 (真剣な表情で)地上にいる女優仲間に私は、麻薬だけはお止めなさいと警告したい気持ちです。最初は遊び半分にやり、面白いと思うのですが、最後は、どんな酷い目に遭うことでしょう!魂までも焼ける思いがするのです。習慣づいてしまった人は、今のうちに何らかの手段を講じて、その習慣を止めるように努力すべきです。地上においてだけでなく、死後もなお恐ろしい後遺症に苦しめられるのです。魂が火で焼かれるような苦しみです(手と指を神経質そうに動かしながら、苦悩の表情を見せる)。
 多くの人が、本当に大勢の人が、少しでもいいから麻薬を求めて地上界へ戻り、いけないと思いつつ、麻薬常習者を深みへと追いやってしまうのです。地上時代の私も、自分では欲しくないのに、それを欲しがる強い力(邪霊)が私を唆していることに何度も気づいていました。地上の人達がそうした事実を知ってくださるといいのですが・・・・。
 私の妻は、私と同じ悲劇の運命と死への道を辿らせない為に、今も一身を捧げております。それはそれは恐ろしいものだったのです(ウォーレスの死後、奥さんは麻薬の恐ろしさを生々しく描いた映画の主役を演じている)。
 ここにお集りの皆様のお陰で、私はやっと安らぎを見出すことが出来ました。前回よりずっと気分がいいんです。魂の目が開き、私にも大いなる可能性が待ち受けていることが分かりました。
 それにつけても、私は、麻薬に手を出す人達になんとかして警告してあげたい気持ちです。麻薬によって悲しみを忘れ、元気を取り戻したい一心から、つい手を出します。たしかに、一時的にはそれらしい気分になります。が、それも束の間のことです。薬が切れた後、さらに悪くなります。そこでまた手を出します。が、それが切れると、また一段と悪くなります。そこで三度目の手を出します。こうして、中毒になってまいります。
 ウィスキーを飲めば酔いますが、ぐっすり眠ればアルコールも切れて、しかも麻薬のような恐ろしい中毒症状は見られません。一日も早く麻薬禍を止めないと、世界中が狂うことになります。禁酒法はむしろ大きな害を生みました。人間は何らかの刺激物を求めるもので、すべてを禁じられると、その反動で、とんでもない方向へ行ってしまうものです。
 ワインとかビールとかウイスキーとかは、適量であれば神経を鎮め、モルヒネのような害はありません。が、芸能界の大半はモルヒネに手を出します。ああ(苦痛にうめくように)もう一度、地上に戻って彼らに警告をしてあげることが出来たら!私の言うことを聞いてくれたら!麻薬の奴隷になることがどんなに恐ろしいことであるかを教えて、なんとしてでも止めるように言って聞かせるのですが・・・。死後の世界がどんなところであるかを知れば、麻薬のようなものには手を出さなくなるはずなのですが・・・・」
博士「地上時代に麻薬中毒になった人間の死後は、さぞ恐ろしいことでしょうね?」
スピリット「(身震いしながら)あんなところへは二度と行きたくありません。ちらっと覗いてきただけですが・・・。このサークルの方達による祈念に感謝いたします。とても力になりました。あの頃の私は大変弱っておりました。それを、霊団の方達が皆さんの祈念を頼りに、私に力をつけてくださり、さらに元気をつけさせるために睡眠状態に入らせてくださったのです。
 最初私は、助けを求めて地上のどこか(心霊サークル)に行きたいと思って探したのですが、思うようにいきませんでした。その時はまだ、霊的な事情がさっぱり分からなかったのです。そのうち、前回ここへ連れて来られて、あなたから話しかけられたお陰で、元気になれたのです。その時のお礼をかねて、今はもうすっかり健康と幸せへの道を歩んでいることを申し上げたくてまいった次第です。
 今更仕方のないことですが、麻薬に最初に手を出した頃に皆さんのことを知っていれば、と悔やまれてなりません。おそらく早期に克服できたことでしょう。そうした体験から私は、地上の大人、子供、若い男女に対して、麻薬だけは絶対に手を出してはいけないと警告します。こんなに恐ろしい薬はありません。今の私だったら、モルヒネで痛みを忘れるよりは、痛みに耐える方を選びます。一時的には痛みを忘れさせてくれても、そのうまい体験が傷口を大きくしていくのです。
 一般の人は、中毒した時の苦しみの酷さを知らないのです。説明のしようのない酷さです。たとえ地獄で焼かれたとしても、その、神経の一本一本が体内で焼けつくような痛さには及ばないでしょう。気が狂いそうになります。体験してみないと分からない苦しみです」
博士「これからは霊界の人達が力になってくれますよ」
スピリット「既に助けを頂いております。皆さんのお陰です。今度もし来ることが許されれば、霊界での私の向上の様子についてお話が出来るものと思います。霊界の事情についてはまだ僅かしか知りませんが、これから勉強します。私は今、学校へ通っています。病院といっても良いところです。そこで誘惑に打ち勝つ為の修行をしているところです。
 人間は、死ねばすべてが終わりになると考えます。しかし、こちらへ来て初めて本当の生命を実感するのです。しかも、地上時代の願望や欲求を、そのまま携えて来ています。なぜなら、それらは魂に所属したものであって、肉体にあるのではないからです。肉体はただの外衣に過ぎないのです。
 私は今、学校で、実在的見地から生命についての教育を受けているところです。色々と分かってきました。これも、皆さんに助けて頂いたお陰です。暗黒の中に置かれているスピリットの為に、こうしたサークルが各地に出来ればと願っております。
 妻にも会って、私を献身的に看病してくれたこと、そしてまた、同じ傷をもつ人々の為に警鐘を鳴らす仕事をしていることに礼を述べたいのですが、それが出来なくて残念です。どうかよろしく伝えてください。私がもっと元気になったら、妻のもとを訪れて、霊的な交わりを得たいと願っております」
博士「いっそうの勇気を出して、過去のことはすべて忘れて頑張ってください。マーシーバンドの人達に援助してもらってください。徐々に克服できるでしょう」
スピリット「頑張ります。どうも有り難うございました。さようなら」