●魂の深奥まで冒す麻薬の恐ろしさ
 麻薬中毒の恐ろしさは、 まさしく冷酷非情であるが、その影響力は、墓場の彼方までも、暴君的ともいうべき勢いを維持し続ける。その欲求は魂の奥深く植え付けられているので、それが満たされない地縛霊の苦悶は、言語に絶するものがあるらしい。
 そうしたスピリットは、その欲求を霊的感受性の強い人間に憑依することによって間接的に満たそうとして、結果的にはその人間を麻薬常習者にしてしまう。


●モルヒネ中毒死した女性とその夫
 ロサンゼルスに隣接する都市にいる薬剤師が麻薬中毒で、しかも明らかに憑依されているので、その患者の為に祈念してほしいとの電話による依頼を受けた翌日に、モルヒネ中毒で死んだ女性のスピリットが招霊された。そのスピリットは麻薬を欲しがって悶えながら、『一粒でいいから』と必死に求めるのだった。


 1923年3月21日
 スピリット=エリザベス・ノーブル


スピリット「あたしに構わないで。休みたいから」
博士「十分に休まれたじゃないですか。永久に休んでいたいのですか」
スピリット「ずっと走り通しです。休んでいたのではありません」
博士「何から逃げ回っているのですか。警察ですか。(ここで霊媒が激しく咳き込み始めたので)昔のことは忘れなさい。もう過ぎ去ったのです。名前をおっしゃってください。それに、どちらから来られたのかを」
スピリット「(激しく咳き込みながら)病気なんです」
博士「病気を持ち越してはいけません。あなたはもう肉体を失ったのです。多分かなり前のことでしょう。ご自分がスピリットであることをご存知ですか。一体どうなさったのですか」
スピリット「分かりません」(と言った後、また咳き込む)
博士「よく聞きなさい。この身体はあなたのものではないのです。あなたはもう病気ではないのです。肉体から解放されたのです。自分はもう良くなったのだと思ってごらんなさい。そうしたら良くなります」
スピリット「あたしは病気なんです。あなたはご存知ないのです。あなたはどなたですか」
博士「医者です。私の言う通りにすれば良くなります。これはあなたの身体ではないのです。今は、目に見えないスピリットになっておられるのです」
スピリット「あたしは病気です」
博士「病気だという観念を抱いているだけです。この身体はあなたのものではありません。あなたは病気ではありません」
スピリット「あなたには分かりません」
博士「今あなたが置かれている状況と、身体をなくしてしまっているという事実がお分かりにならないのですね」
スピリット「あたしは病気なんです」
博士「心でそう思っているだけです。昔からの習慣に過ぎません」
スピリット「もう死にそうです。横にさせてください」(咳き込む)
博士「その身体は、ここだけの借りものなのです。あなたのものではありません。病気だったあなたの身体は、墓に埋められたのです。咳き込むのはお止めなさい」
スピリット 「埋められてはいません。これがあたしの身体です。咳が止まらないのだから、仕方ないでしょう?」
博士「どちらからおいでになりました?」
スピリット「知りません。咳を止めなさいなんて、そんなことがなぜ言えるのですか」
博士「咳をする必要がないからですよ」
スピリット「この病気のことを、まるでご存知ないからですよ」
博士「今あなたが使っている身体は、少しも病気ではありません」
スピリット「あたしは病気です。少しお薬をください。早く!酷くならないうちに・・・」
博士「あなたは病気でいるのがお好きとみえますね。良くなりたいとは思わないのですか」
スピリット「あたしは病気なのです。寝てないといけないのです。これほど重病の女が、こんなところに座らされるなんて・・・」(咳き込む)
博士「自分は病気ではないと、強く心に思ってごらんなさい。そうしたら病気でなくなります」
スピリット「薬をください!モルヒネが欲しいのです。心臓が!」
博士「あなたは肉体を失って、今はスピリットになっているのです」
スピリット「いいから薬をください!楽になりたいのです。15粒ほどください。咳が酷いのです。モルヒネをくださいと言っているのです。少しでいいのです。一粒だけでもいいです。腕に注射を打ってくれてもいいのです。腕が一番よく効きます」
博士「そんな馬鹿なことを言うのはお止しなさい」
スピリット「(荒々しい金切り声で)少し下さい、早く!もう我慢できません!少しだけくださいと言っているのです。一粒でいいのです。たった一粒で・・・もうダメ!」(顔を歪め、虚空を手でひっかくような仕草をする)
博士「病気だとおっしゃいましたね?」
スピリット「病気です」
博士「それは、わがままからくる病気ですよ。今置かれている本当の事情を理解する気持ちにならないといけません」
スピリット「死なないうちにモルヒネをください!」
博士「少し落ち着きなさい。どこから来られたのですか」
スピリット「ああ、苦しい!モルヒネを!どうか、どうか、一粒でいいですからください!」
博士「お名前は?」
スピリット「(指をワシのように曲げて、必死にもがく)お願い!一粒でいいのです、一粒で!」
博士「ここがカリフォルニアであることをご存知ですか」
スピリット「知りません」
博士「ここはカリフォルニアのロサンゼルスですよ。どこだと思っていましたか」
スピリット「そんなこと、どうでもいいです。小さいのでもいいです、一粒だけください。どうしてもいるのです!」
博士「モルヒネのことは忘れて、何か他のことを考えなさい。もう肉体はないのですよ」
スピリット「こんなに咳が出て、心臓も悪いのです。もう死にそうです」
博士「もう肉体がなくなっているというのに、それ以上どうやって死ぬのですか」
スピリット「別の身体があっても、それも同じように病気のはずです」
博士「昔の悪い習慣を忘れなさい。そうすれば楽になるのです」
スピリット「モルヒネがいるのです。切れると大変です。(左右を叩く仕草をする)もうこれ以上我慢できません。早くください!」
博士「私の言うことを聞けば、きっと現在の身の上から救われます。高級界の方達も救いの手を差しのべてくださいます。聞く気がないのであれば、それまでです。昔の習慣を止めるのです。肉体は、もうなくなったのです」
スピリット「どうか、十五粒ほどください!」
博士「絶対にあげません。モルヒネを必要とするような肉体は、もうないのです。今こそ救われる絶好のチャンスなのですよ」
スピリット「とにかくください、モルヒネをください!モルヒネさえ頂ければ、それで良くなるのです 」(もがく)
博士「大人しくしないと、追い出しますよ」
スピリット「結構です!ただ、あたしは病気なんです。モルヒネをくださいと言っているだけなのです」
博士「わがままですねぇ」
スピリット「モルヒネを求めて走り回っていたのです。なぜくださらないのですか」
博士「もういらないからです。あなたは肉体を失って、今、私の妻の身体を使っているのです。言う通りにすれば助かります。そのためにはまず、今はもうスピリットになっていることを理解しなさい」
スピリット「咳がこんなに出るんです。モルヒネが必要なのです」
博士「ずいぶん永いこと、地球圏の暗黒界にいたようですね。今は肉体はなくなっているのですよ」
スピリット「ちゃんとあります」
博士「その身体はあなたのものではないと言ってるでしょ?理解しようとする態度を見せてくださいよ」
スピリット「そうしたいのですが、とにかく病気なものですから・・・」
博士「あなたは病気じゃありません。わがままなのです。私の言うことを聞いて、自分はもうスピリットになったのだということを理解してはどうですか」
スピリット「それはそれとしても、とにかくモルヒネが欲しいのです」
博士「モルヒネが必要だという観念を棄てるのです。病気だと思い込んでるだけなのです。今までずっと走り回っていたとおっしゃいませんでしたか」
スピリット「言いました。モルヒネが欲しくて、手当たり次第に薬局へ行ってみました。時には手に入ることもありました。が、長続きしません」
博士「それは、誰かの肉体に憑依して、間接的に得ているだけですよ。あなたには肉体はないのです」
スピリット「身体はあります」
博士「それは肉体ではありません。あなたは今、私の妻の身体を使用しているのです。高級霊の方があなたを救う為に、ここへお連れしたのです」
スピリット「あたしを救ってくれるのは、モルヒネだけです。手に入らないと思うと、とたんに病気になるのです」
博士「それはあなたが、心の中で病気だという観念を抱くからですよ。どちらから来られましたか」
スピリット「分かりません」
博士「どうだっていいといった態度ですね」
スピリット「どうでもいいです。とにかく、モルヒネが欲しいのです」
博士「今年が何年であるか、ご存知ですか」
スピリット「そんなことはどうでもいいです。欲しいのはモルヒネだけです。町中のあらゆる薬局に行ってみました」
博士「どこの町ですか」
スピリット「知りません。思い出せないのです。色々と見てまわりたかったので、同じ町に長期間はいませんでした」
博士「思い出せる最後の町はどこでしょうか」
スピリット「思い出せません」
博士「あなた自身のお名前は?」
スピリット「永いこと呼ばれたことがないので、何と呼ばれていたか分からないのです」
博士「今年が何年であるか、思い出してみてください」
スピリット「今はただ、モルヒネのことばかりで、それ以外のことは考えることも話すことも出来ません」
博士「お母さんのお名前は?」
スピリット「母の名前?」
博士「ブラウンでしたか、グリーンでしたか、ホワイトでしたか」
スピリット「そういう『色』とは関係ありません。モルヒネを一粒くだされば、何もかも思い出せると思うのですが。お医者さんならくれてもいいでしょ?医者はすぐにくれますよ」
博士「今度ばかりは絶対にダメです」
スピリット「ならば、あなたは医者じゃない」
博士「あなたは今、私の妻の身体を使っているのです。あなたはスピリットなのですよ」
スピリット「そんなこと、どうでもいいです」
博士「これ以上真面目になれないというのであれば、見放すしかありません。昔の悪い習慣を忘れてしまいなさい。そうしたら救ってあげられるのです」
スピリット「あたしは病人なのです」
博士「結婚はしてましたか」
スピリット「はい」
博士「ご主人のお名前は?」
スピリット「フランク・ノーブル」
博士「ご主人は、あなたを何と呼んでいましたか」
スピリット「エリザベス」
博士「ご主人は、どういうお仕事をしておられましたか」
スピリット「どんなことでも」
博士「あなたの年齢は?」
スピリット「42歳です」
博士「現在の大統領は誰ですか」
スピリット「知りません。誰だっていいです。政治には関心がありません。夫は政治にカッカしてました。あたしは家事で忙しくしていました。夫はあたしのことを『ベティ』と呼んでいました」
博士「ご主人は今、どこにいらっしゃいますか」
スピリット「もう何年も会っておりません。いい人でした」
博士「お母さんは、どこにおられるのですか」
スピリット「母は死にました」
博士「あなたは、どちらから来られました?」
スピリット「あたしは、ええと・・・テキサスのエルパソから来ました」
博士「そこでお生まれになったのですか」
スピリット「夫に聞いてください。(苦しそうに、うめき声を出す)もうダメです」
博士「もう肉体はなくなったということが、まだ分かりませんか。もうスピリットになっておられるのですよ」
スピリット「だったら、天国へ行って歌を歌うことが出来るはずです。あたしはよく教会に通っていましたから」
博士「どういう教会でしたか」
スピリット「メソジスト教会です」
博士「ご主人も一緒に行かれたのですか」
スピリット「夫はいい人でした。しばらく会っておりません。あたしを愛してくれてましたし、あたしも彼を愛しておりました。(急に金切り声になって)フランク、あなたに会いたい!フランク、フランク、助けて!ここに来てるの?」
博士「そんな声の出し方はお止めなさい」
スピリット「どうか、モルヒネを少しください。夫はすぐにくれました。お医者さんのラッセル先生も、心臓のために服用した方がいいとおっしゃってました。(わざと気取った声の出し方で)フランキー!フランキー!」
博士「なぜ、そんな呼び方をするのですか」
スピリット「食事の用意ができたら、いつもそんなふうに呼んだのです。可愛い、いい子だったわあ」
博士「ふざけるのは止めなさい!真面目になりなさい!」
スピリット「夫を呼ぶ時は、いつも真面目ですよ。いつも夫のことを思ってます。大好きです。でも、モルヒネも好きです。あら、そこに夫が立ってる!いつ来たの、あなた!モルヒネをちょうだい!」
博士「返事をなさってますか」
スピリット「何もあげないと言ってます。あなた、よくあたしの代わりに薬局へ行ってくれたじゃないの。今度もあたしの言うことを聞いてよ。モルヒネを一回分だけちょうだい。もうこれきりにするから・・・。あたしの病気のことはよく知ってるでしょ?あたしのこと、愛してくれてるのでしょ?ね?愛してるんだったら、少しでいいからちょうだい。また二人で幸せになれるわ」


ここでついに、エリザベスは霊媒から離されて、霊団に預けられた。そして代わって夫のフランクが出現した。

スピリット「フランク・ノーブルです。妻をここへ連れてきて救って頂こうと、私もあれこれと努力してまいりました」
博士「さぞかし辛抱がいったことでしょう」
スピリット「こうして、やっと私の手の届くところまでお導きくださって、感謝申し上げます」
博士「お役に立つことが出来て、嬉しく思っております」
スピリット「地上時代の妻は、重い病気を患っておりました。ある時、痛みを鎮める為に医者がモルヒネを与えたのが良くなくて、それ以来、薬が切れて痛みがぶり返すたびに医者を呼んで、モルヒネを投与してもらわないといけなくなってしまいました。あれは、ほんとに怖い習慣です。
 モルヒネが欲しくなると、彼女は仮病を使っていました。私にはそれが分かっておりました。何度も繰り返すうちに、それがますます上手になり、実にそれらしく芝居を演じるのです。やむを得ず与えると、しばらくは元気にしているのですが、それが切れた時の発作は、それはそれはひどいものでした」
博士「どちらにお住まいでしたか」
スピリット「テキサスのエルパソです」
博士「いつ他界されたか、ご存知ですか」
スピリット「いえ、知りません。ずっと妙な状態が続きました。地上では辛い生活を送りました。もちろん裕福ではなく、出来る仕事は何でもやって、生計を立てておりました」
博士「それは少しも恥ずかしいことではありませんよ」
スピリット「教育を受けていなかったものですから、その時その時にできる仕事をするしかなかったのです。ある時は鉱山で働き、ある時は森で仕事をし、ある時は大工もしました。家庭生活を維持するために、何でもやりました。
 エリザベスも、素直でいい女房だった時期もあったのです。それが、子供を生んでから病気がちとなり、痛みを訴えるようになりました。それで、医者が痛み止めとして一度モルヒネを与えてからというもの、もっと、もっと、と求めるようになり、ついに中毒になってしまいました。手に入るまでは手に負えない状態になるのですが、服用するとケロッとして、次の発作が来るまでのしばらくは機嫌がいいのです。
 が、その習慣が次第に深まっていくにつれて咳の発作を起こすようになり、結局それで死んだのです。モルヒネを服用した際に、どうしたわけか、喉に詰まって窒息してしまったのです。今夜もその死に際と同じシーンを演じておりました」
博士「私が止めなかったら、もっともっと咳き込んでいたはずですよ」
スピリット「永いこと私は妻を探したのですが、見つけて近づいても、すぐに逃げて、モルヒネを叫び求めてまわるのです。時折完全に妻を見失って、所在が突き止められないこともありました。
 が、不思議でして、こちらの世界では、その人のことを強く念じると、その人のところへ行っているのです。そのうち私は、いつでも妻の所在を突き止めることが出来るようになりました。見つかってみると、地上の人間に憑依していることもありました。私を見ると、とても怖がりました。私が先に死んでいたからでしょう」
博士「あなたご自身は、他界する前から霊的なことについての知識があったのですか」
スピリット「母が霊媒でして、霊的なことは母から学んでいました。妻はメソジストなものですから、そういうものは信じようとしませんでした。スピリチュアリズムなんかを信じていると、地獄へ行くと思い込んでおりました。皆さん、今のうちに霊的な真相を知っておいてください。死後、とても楽です。信条や教義や猜疑心を抱いてはいけません。
 このたびは、私どもの為のお心遣い、本当にありがとうございました。お陰さまで、妻は精神的な麻痺状態から脱することが出来れば、順調に良くなるはずです。病院に入院中にモルヒネで眠らされたのです。もうこれ以上、人様に迷惑をかけることもないでしょう。私達もようやく一緒になれます。
 こうして、我々二人とお話をして頂いたことに感謝いたします。では、失礼します」