まったく俺は、自分で書いていて、自分がどうしようもないと思う。

 それで、暫くはこの次どうしようと、色々とネットで仕事を探していました。すると、家電量販店でのネット契約の派遣社員の仕事を見つけました。時給1300円。これに、応募しました。というのも、この時の俺はまだ、訪問販売では成果を上げられなかったが、もしかしたら、家電量販店という固定された場所での営業ならば、俺でも活躍できるのではないか、なんて、無茶な発想をしていたからでした。もっと言えば、訪問販売で一件も契約できずに終わったのが悔しかったのかもしれません。この後、どうなるかも知らずに・・・・。

 この仕事は五月から始めました。最初の三日間は、ネット知識の勉強でした。でも、よく分かりませんでした。まぁ、あとは、実際の業務をしながら覚えていってくれればいいということでした。その後、実際の店舗に配属されました。その家電量販店は、あの有名な某家電量販店です。場所は東京だった。なんか、その派遣会社のスタッフの派遣先の家電量販店が、俺の近くの家電量販店にはなかったから、結局、またしても通勤時間が片道二時間近くかかる場所になってしまいました。そのせいで、またしても、睡眠時間が五時間以下になってしまいました。俺は起きてからの動作が遅いし、店舗では実際の出勤時間の前にみんなでミーティングがあるし、その前に着替えないといけないし、電車が遅れた時のことを考えて、ギリギリで出勤してはいけなかったから。
 それで、家電量販店の裏口から入って、ロッカーで着替えて、青いフレッツ光の制服を着て、ズボンも定められた色のチノパンを履きました。ワイシャツも着ました。
 その時までは、その店舗のフレッツのスタッフは、色々な派遣会社から集められた人達で構成されていたのだが、俺が採用された時には、俺の派遣会社からのスタッフで統一される時期だったらしい。だから、俺と同期入社の人は、他にも数人いた。それで、フレッツスタッフを取り仕切るフレッツ光の派遣社員のリーダーも、俺の派遣会社から派遣されていた三十代の人だった。
 それで、家電量販店での仕事が始まりました。本当にもう、今から思えば、よくもまぁ、人見知りの俺が、こんな超接客業にチャレンジしたものだ。俺は話力、知力、記憶力というあらゆる能力がないくせに、無駄に行動力はあるから困る。
 家電量販店のシフトは、三つくらいあった。日によって違った。まず、開店前に出勤するシフトの場合は、家電量販店の社員達と一緒に、補充する品物を各場所に補充した。俺は主にインクコーナーにインクを補充したりした。あとは、午前十一時から出勤のシフトや、午後から出勤のシフトがあった。そして、土日はお客がわっと来店するので、絶対に全てのスタッフが出勤だった。祝日は無関係だった。だから、週のうち、平日の二日が休みだった。二日連続で休みの場合もあるし、一日ごとに細切れの場合もあった。まぁ、年中無休の家電量販店というのは、そういうものでしょう。
 そんで、肝心の業務ですが、これが、とても難しかった。まず、本業のネットの契約業務も、契約書の書き方とか、ネットの仕組みとか、ライバルのネット会社の契約形態とか、ライバルに対して自社のネットはどういった点で優れているかとか、本当に色々と難しい。あと、ネット以外でも、パソコンとセットで売るために、店舗にあるすべてのパソコンのスペックとか、特徴とか、あとパソコン関連のあらゆる知識とか、あと発送方法とか、なんでそんな家電量販店の店員がすることまでネット契約係がやらねばならないねん!ということまで、やらねばならなかった。といっても、俺は一応教わったけど、結局、全然出来なかったが。だって、本業のネット契約自体もまともに出来なかったんだから。
 まぁ、本当は、それは違法らしいのだが、どこの家電量販店も、正社員だけじゃ回らないので、ネットのスタッフにやらしているらしい。ま、日本は、こういう灰色の部分がありすぎる。みんな分かっているけど、見て見ぬ振りというか。グレーゾーン金利しかり。欧米だったら、自分の契約している仕事の業務以外のことを無償でやらされたら、ブチキレて即裁判沙汰になるだろうが、日本人は本当に甘い。
 ちなみに、家電量販店が儲ける仕組みは、店舗が各ネット会社からの派遣スタッフを受け入れる代わりに、契約が取れたら、一件につき、ネット会社から数万円が懐に入るという仕組みでした。だから、各ネット会社ごとに、厳しいノルマが設定されていた。店舗のマネージャーからもプレッシャーがかかるし、ネット会社からもプレッシャーがかかった。
 本当に難しい。メモリを買いたいお客さんに対して、メモリが入っているガラスの鍵を開けたり、間違ったメモリを売りつけないように調べたり・・・。一度、俺、マック関連のハードディスクか何かで、本当はそのお客さんのPCでは使えないタイプの機械を間違ってお勧めしちゃったからな。それで、レジの正社員が気づいて、ことなきを得たが。他のスタッフでは、間違って品物を売ってしまって、マネージャーがお詫びに品物をそのお客の家まで届けにいったことがあった。俺もそのままお客が持ち帰っていれば、おれのせいで、マネージャーがお詫びに行っていたかと思うと、俺の普段の成績が悪すぎるだけにゾッとする。つーか、なんでそんなこと、ネット契約係がしなけりゃならないんだよ。駅の清掃員が、お客の対応とかキオスクの販売とか色々するようなものだろ、まったく。おかしいよ、日本は。
 ネット以外のウイルス対策ソフトがどうのこうのとか、CDなんとかはどうなんだとか、ケーブルはどれですかとか・・・その他色々すぎる質問を浴びた。もうね、お客の方は、家電量販店のスタッフと、ネットの獲得のスタッフの見分けがつかないので、構わずに俺にどんどん聞いてくる。それは、ネット以外の、プリンタのインクがどうのとか、もうね、あらゆる家電量販店の品物に関することをだよ。そんなの、俺に分かるわけないじゃん!でも、普通のお客は、ネットのスタッフも家電量販店のスタッフと同じだと思っているから、構わず聞いてくる。ハー・・・。
 記憶力の悪い俺に、あんなに膨大に存在する家電量販店の全ての商品の知識と仕組みを覚えるのなんて、無理だよ。でも、お客さんを邪見に扱う訳にもいかず、また、そこの正社員の数も圧倒的に足りないので、ネットのスタッフで対応するしかないのだ。
 契約業務自体も、俺はてんで分からなかった。いや、一生懸命に頑張ったんだよ。電車の中や、休日にパンフレットを見たりしてさ、一生懸命に覚えようとしたんだよ。だけど結局、元々のスペックが悪すぎるから、どうしてもみんなに追いつけない。同期入社のスタッフ達に、どんどん差をつけられてしまった。まぁ、俺は荷馬車で、他人はスーパーカーみたいな差でした。
 だって、俺、デスクトップパソコンがどこにあるのかさえ、二ヶ月経過しても覚えられなかったし、自分に教えてくれていた先輩スタッフでさえ、一ヶ月経過した段階で、「あれ、この人の名前、何て言ったっけ・・・?」と、突然忘れてしまうような感じなのだ。その人には、陰でフレッツリーダーに、「もう、齋藤さんに教えるのは疲れました・・・」と言っていたらしい。もう、今でも頭がボーっとしているし。だから、俺は記憶力を要求されるような仕事は無理だ。世の中には努力でどうこうできない領域がある。だから、俺は知能の要求されない瓦礫処理の仕事を選んだ訳だが。
 で、同期入社のスタッフはどんどん一人で件数を獲得していったのに対して、俺は二ヶ月経過しても、まだ一人では契約書さえ書けなかった。見込みがありそうな人に話しかけて、その人を先輩に引き継ぐという形だった。本当にもうね、それくらいしか出来なかった。圧倒的に出来なかった。
 そこのPCコーナーのマネージャーはやり手だった。ある時期、ネットスタッフを班ごとに振り分けて、互いに競い合わせて、上位の班には商品券をプレゼントするという褒美を用意し、スタッフのやる気を煽って契約率をアップさせる作戦を発案したのだ。しかし、俺が所属した三人組の班は、他の二人は何件も契約をどんどん獲得したのに、俺が期間中、ほんの一、二件程度しか獲得しなかったので、結局、下位に沈んだ。「齋藤さん〜、しっかりしてくださいよ〜・・ねえ・・・マジで・・・」なんて冷たく言われて、俺は終止、鬱でした。
 フレッツリーダーにも、同期入社の奴らはあんなに成績優秀なのに、なんでお前は未だに契約書さえまともに書けないんだ!と、怒られるし。それも、怒鳴るのではなく、冷たいナイフで刺すような感じで、冷酷に言われた。ああ、もうね、本当に、地獄ですよ。本物の地獄というのは、肉体的なダメージではなくて、精神的なダメージですね。もうね、通勤の途中に、駅のホームで待っている時に、線路をジーっと見て、なんだか飛び込んでしまいそうな気持ちでした。でも、スピリチュアリズムで自殺者の死後の様子などを勉強していたし、なにより、なんでこんなところで死ななきゃならないのか、と思い、思い留まりした。
 しかし、周囲のネットスタッフは大体は良い人で、けっこう分からないことは教えてくれたが、突き放されることも多かった。とにかく、ネットとか家電とかPCとか、本当に難解すぎる。今、この文章を打ち込んでいるマックのPCだって、よく分からないんだから。
 それで、三週間が過ぎる頃に一度、派遣会社に辞めたいと伝えたのだが、辞めさせてくれなかった。というのは、この時期は、前述の通り、この派遣会社への切り替えの時期だったからだ。だから、なんとか説得されて、継続して勤務しました。けど、やはり相変わらずの低空飛行の成績で、チンプンカンプンで、やはり生き地獄でした。しかも、給与が、残業とかも含めると、32万円にも達する時もありました。それが逆に、真面目な俺は、こんな成績でこんなに貰うのは申し訳ないという思いで一杯で、なおさら落ち込んでしまった。
 だって、一日二件獲得しないとNTTは赤字とか聞いたのに、俺は最大で28日間連続無契約の時もあったんだ。これは、もうシャレにならない。同僚の視線も厳しい。超給料泥棒だな。だって、出来高制ではなくて、時給制なので、出来る奴も、俺と給料同じだからな。出来る奴からしたら、怒るだろうな。
 あまりにも俺が契約を獲得できないし、見込みがある人に対して俺が話しかけると、逆に逃してしまう危険性があるということで、俺はついに、PCフロアから追放されました。たしかに、俺が話しかけた時と、その他の人が話しかけた時とでは、契約率が全然違った。俺はすべてのネットスタッフの中で圧倒的に最低の契約率だった。そして、ついに、おもちゃコーナーに追放されました。そこは、任天堂のDSとかと一緒にネットを契約すると値引きが可能という特典があって、それ目当てのお客さんをゲットしろという指令だったのだが、そこでも俺は、相変わらず全然契約が取れなかった。まぁ、PCフロアよりも、携帯ゲーム機コーナーは、ネットに関しては関連性が薄くなる分、やはり難しくなるのだが。そこでも10日連続で無契約とかザラでした。ちなみに、28日間連続無契約の時には、もうお前、宣伝のチケットを入り口で配っていろと言われて、一日中、それを配っていたのだが、やはり俺では中々受け取ってくれなかった。一生懸命に声を出していたのに・・・。しかし、同僚が同じチケット配りをすると、受け取ってくれる率が格段に高まるのだった。俺が六時間かかってさばいたチケットの枚数を、同僚は一時間半程度でさばいてしまった。
 おもちゃコーナーで、俺は、ガラスの中にある携帯ゲーム機の横に立ち、大声を上げて宣伝していてた。携帯ゲーム機に興味のあるお客に、携帯ゲーム機の購入と同時にネット契約してくれれば、とても割引しますよ、と話しかけたのだが、殆どの人は、いや、いいですと、断った。しかし、同じことを同僚がすると、なぜかお客は笑顔で反応して、話を聞いてくれるのだった。やはり、才能というか・・・ぶっちゃけ、この仕事、俺には無理だった!!!

 そりゃもう、契約を獲得する業務において、契約を超長期間獲得出来なかった時の閉塞感、劣等感・・・。しかも、それが一番成績が下の者だとしたら・・・。そりゃ、もう地獄です。
 結局、四ヶ月勤務した時点で、もうさすがに無理ですと再度派遣会社に訴えて、ようやく一ヶ月後に辞めさせてくれることになった。それで、五ヶ月勤務した後、辞めました。

 結局、五ヶ月かかっても、一人で契約できたのは、単身者用のマンション・アパートの一番簡単な契約だけだ。他人にとっちゃ簡単なことでも、俺にとっては至難の業だった。NTTの会社に電話して、設備確認して、それから色々と話をして・・・もうね、無理。なんとか自分一人でやり遂げられたって言ったって、同僚がすれば30分で終わることを、俺は一時間もオロオロ・モタモタしながら、ようやく成し遂げたんだ。だから、ようやく契約書を入れたビニールをお客に渡す頃には、お客は超不機嫌になっていた。それをフレッツリーダーにも指摘されました・・・一応、俺なりに頑張ったのだが・・・。
 本当に、難しいことは、何度勉強しても、覚えられなかった。だから、度々、同僚に助けを求めた。突き放されることもあった。しかし、俺は悟った。いくら努力しても、無理なことは無理なのだ。それに、俺は知能とか記憶力とかの基本スペックがとても低いので、対応可能な仕事の幅がとても狭いことも、身に沁みて分かった。

 結局、多分、五ヶ月働いて、俺一人での総獲得件数は、23件くらいかなぁ・・・。シャレにならないよ。フレッツスタッフ一人当たり一日二件獲得しなけりゃNTTにとっては赤字なのに、週五日勤務を五ヶ月でたったの23件ぽっちなんだから・・・給料泥棒にもほどがある。
 
 やはり、出来ない仕事を続けるほど、辛いものはないね。仕事で貢献してこそ、人間、生き生きと生きられると思うから。全然業績に貢献出来ない仕事を続けるのは、とても辛いよ。