『天国と地獄』 アラン・カルデック・著 浅岡夢二・訳

 冒頭の[訳者からのメッセージ]から引用


 「スピリチュアル」ブームのもとにあるもの
19世紀半ばから後半にかけて、霊的な現象を伴う精神運動が、欧米各地で巻き起こりました。そのフランスにおける中心人物となったのが、アラン・カルデック(1804~1869)です。
 「霊との対話」に基づいた彼の著作シリーズは、近代スピリチュアリズムの最も偉大な古典であり、19世紀後半のヨーロッパにおいて、400万部を超える空前の大ベストセラーとなりました。その信奉者は、ラテン世界で、現在、2000万人にのぼると言われています。
 
 「交霊会」とは?
 霊達とのコンタクトは、主として「交霊会」を通して行われたものです。
 それでは、ここで、当時の交霊会を再現してみましょう。
 パリ霊実在主義協会に属するメンバーの家のサロンに、今日は12人の参加者が集まっています。部屋の真ん中に、アラン・カルデックと霊媒が向き合って椅子に座り、その横にはテーブルが置かれて、その前に速記者が座っています。アラン・カルデックと霊媒のやり取りを記録するためです。
 それ以外の参加者はそのまわりにゆったりと座っています。
 準備が整うと、全員で静かに数分のあいだ瞑想します。
 その後、アラン・カルデックがお祈りをし、そして招霊を行います。
 霊が降りてくると、アラン・カルデックがみんなを代表して質問し、それに対して霊が答えるというかたちで、交霊会が行われるのです。そのやり取りは、すべて速記者によって記録されます。
 こうした交霊会が、当時、アメリカやヨーロッパの全域で頻繁に行われていました。そして、そこには、コロンビア大学のハイスロップ教授、アメリカ・サイ科学協会の会長であるリチャード・ホジソン、フランスのノーベル生理学賞受賞者シャルル・リシェ博士、バーミンガム大学の学長であり、かつ王立アカデミーのメンバーでもあるオリヴァー・ロッジ卿、当時の最も偉大な物理学者であるウィリアム・クルックス卿といった、綺羅星のごとき学者や科学者、さらに、「シャーロック・ホームズ」シリーズを書いた、あのコナン・ドイル卿も、真剣な面持ちで参加していたのです。

 アラン・カルデックの人物像
 アラン・カルデックは、本名をイポリット=レオン・ドゥニザール・リヴァーユといい、1804年10月3日、フランスのリヨンにおいて、代々、法律家を輩出してきた家系に生まれました。幼少時より、自然科学や哲学に関心を寄せる、非常に利発な子供でした。
 10歳のときにスイスのペスタロッチ学院に入学し、そこで、化学、物理、数学、天文学、医学、語学、修辞学などを総合的に学びます。医学の博士号を取る一方で、6カ国語を自由に操るといった、極めて幅広く深い教養を備えた人でした。
 冷静かつ理知的なタイプで、実証主義的な発想を体得しており、理性に裏付けられた懐疑主義こそが、彼の真骨頂であったと言えるでしょう。
 フランスに帰ってからは、自宅で諸学問を教えるかたわら、参考書や教育書を次々に出版しました。アラン・カルデック自身、教育学者として高い評価を受ける一方で、それらの書物は大変な評判を呼び、1840年代の終わり頃には、印税だけで暮せるような状況になっていました。
 そうやって実績を積むうちに、やがて、50歳でスピリチュアリズムに出会います。以後、アラン・カルデックは、自然科学的な手法を使い、霊的な世界を徐々に解明していきます。
 そういう意味では、自然科学系の諸学問を極めた上で、あるときから霊的世界に参入していった、北欧の知的巨人スウェーデンボルグに似ていると言えるかもしれません。

 「霊実在主義」とは?
 アラン・カルデックは、霊界から受取った膨大なメッセージに基づいて、spiritisme(スピリティスム)、すなわち「霊実在主義」あるいは「霊実在論」と呼ばれる、壮大かつ精緻な理論体系をつくりあげました。
 この「霊実在主義」の基礎をなす原理は次のようなものです。
①死というのは、肉体が機能を停止するだけのことであり、その人の本質、つまり霊(魂)は、エネルギー体として霊界で永遠に生き続けている。
②霊界で暮している霊は、ある一定の期間を経ると、肉体をまとって地上に転生してくる。
③輪廻転生の目的は、魂の向上、すなわち、より高い認識力の獲得と、より大きな愛する力の獲得である。
④魂は絶えず向上して神に近づいていく。神に近づけば近づくほど、悟りが高まり、魂は自由となり、より大きな幸福を享受できるようになる。
⑤霊界にいる霊人達は、地上の人間にメッセージを送ってくることがある。
アラン・カルデック自身の定義によれば、「霊実在論とは、実験科学であると同時に哲学理論でもある。実験科学としては、霊との間に築かれる関係に基礎を置いている。哲学理論としては、霊との関係から導き出されるあらゆる心の法則を含んでいる」、すなわち、「霊実在論は、霊の本質、起源、運命を扱う科学であり、また、霊界と物質界との関係を扱う科学である」ということになります。
 アラン・カルデックは、1858年1月1日には月刊誌『霊実在主義』を刊行しはじめ、ついで、パリ霊実在主義協会を創立しました。このパリ霊実在主義協会は、霊実在主義を広めるための機関として、その後、幅広い活動の拠点となります。



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