以下の文章は、[迷える霊との対話]という、霊的知識の書物から抜粋した文章です。また、自殺に関するその他の霊的知識は、[自殺してはならない霊的な理由]に書かれています。

 R夫人は自殺志向が強く、絶えず髪の毛を掻きむしり、食べることも眠ることもせず、いつしか骨と皮ばかりに痩せこけてしまった。そして「もう五百人も人殺しをした。あとは自殺することしか用がなくなった」などと口走るのだった。好転の兆しが見られないので精神病院に送られ、3年間もの間、鍵のかかった部屋に留置されていた。
 我々の手に預けられてからも、数回にわたって自殺を企てたが、二、三週間もするうちに、かつて自殺して死んだ陰鬱なスピリットが取り除かれて、それ以来、自殺の衝動は見られなくなった。
 その後もしばらく、我々の治療所にいて、体重と体力と健康の回復をはかり、完全に正常に復してから家族の元に帰り、今では、病気になる以前にやっていた仕事が出来るようになった。次の実験は、その除霊されたスピリットとの対話である。

 1919年2月23日
 スピリット=ラルフ・スチーブンソン

博士「どちらからおいででしょうか」
スピリット「うろついていたら明かりが見えたので入ってきました」
博士「お名前を教えていただけますか」
スピリット「いえ。自分でも分からないのです」
博士「ご自分の名前が思い出せないのですか」
スピリット「何もかも思い出せなくなったみたいで・・・・・。頭がどうかしたのでしょうか。ひどく痛みます」
博士「ご自身は、どうしてだと思われますか」
スピリット「考えるのが難しくて・・・・。私は何をしにここへ来たのでしょうか。あなたはどなたですか」
博士「ドクター・ウィックランドと呼ばれている者です」
スピリット「何のドクターですか」
博士「医学です。あなたのお名前は?」
スピリット「私の名前?妙なことに、思い出せないのです」
博士「死んでどのくらいになりますか」
スピリット「死んで?冗談じゃありません。死んでなんかいませんよ。死んでた方が良かったのですがね・・・・・」
博士「人生がそんなに面白くないですか」
スピリット「ええ、面白くないです。もし私が死んでいるとしたら、死んでいるというのもなかなか辛いものですね。何度死のうとしたか知れませんが、死ぬたびに生き返るのです。なぜ死ねないのでしょうか」
博士「[死]というものは存在しないからです」
スピリット「ありますとも!」
博士「何を根拠にそう断言なさるのですか」
スピリット「根拠は知りません。(急に苦しげに)ああ、死にたい!死にたい!人生は暗くて憂鬱だ。もう死んでしまいたい・・・何もかも。なぜ死ねないのだ!」
博士「あなたは道を間違えられたのですよ」
スピリット「では、正しい道はどこにあるのですか」
博士「あなたの心の中です」
スピリット「私は、神の存在を信じた時がありました。天国と地獄の存在を信じたこともありました。が、今はもう信じてません。あたりは暗く陰鬱で、良心が咎めてばかりいます。ああ、忘れさせてほしい!忘れてしまいたい!ああ、忘れたい!」
博士「あなたは肉体を失っていることをご存知ですか」
スピリット「何も知りません」
博士「では今、なぜ、ここにいらっしゃるのでしょう?」
スピリット「皆さん方の姿は見えております。見覚えのない方ばかりですが、お見受けしたところ、親切そうな方ばかりです。どうか私も仲間に入れて頂き、少しでも結構ですから、光と幸せを恵んでくれませんでしょうか。もう何年もの間、光も幸せも味わっていないのです」
博士「それほどまで苦しみを味わう原因は何なのでしょうね?」
スピリット「神は存在しないのでしょうか。なぜ神は、私をこんな暗くて陰気なところに押し込めておくのでしょうか。私もかつては純心な少年でした。なのに私は・・・・ああ、言えない!言っちゃいけない!いけない、いけない、絶対に言っちゃいけない」(非常に興奮している)
博士「今、あなたの心にあるものを全部吐き出してごらんなさい」
スピリット「大きな過ちを犯してしまいました。絶対に許されないことです。私のような者を神は決してお許しにならないでしょう・・・・決して、決して、決してお許しにならない!」
博士「今、あなたが置かれている現実に目を向けることが大切です。私達が力になりましょう。で、まず、あなたは男性であるかのようにおっしゃってましたが・・・・」
スピリット「男性ですとも」
博士「その身体は女性ですよ」(博士の奥さんが霊媒だから)
スピリット「苦しんでいるうちに女になっていて、しかもそれに気がつかないなんて、そんな馬鹿なことがこの世にありますか。(あるスピリットの姿を見てひどく興奮して)こっちへ来るな!来るな、来るな!あっちへ行け!わあっ、あれを見ろ、あれだ。もう勘弁してくれ!」
博士「一体何をしたというのですか」
スピリット「それを喋ったら逮捕されてしまう。これ以上ここへはいられない。帰らせてもらいます。走って逃げないと!(R夫人は何度も逃げ出そうとする行動を見せた)奴らが追いかけてくる。こんなところにいたら、捕まってしまう。帰らせてくれ!見ろ、やってくる、奴らが!」
博士「今どこにいると思っているのですか」
スピリット「ニューヨークです」
博士「ここはロサンゼルスですよ。今年は何年だと思いますか。1919年ですよ」
スピリット「1919年?そんなはずはありません」
博士「何年のつもりですか」
スピリット「1902年です」
博士「17年も前の話ですね。肉体という物的身体を失っていることがまだ分かりませんか。本当の死というものは存在しないのです。地上界から霊界へと移るだけのことです。なくなるのは肉体だけなのです。生と死の問題を勉強なさったことがありますか」
スピリット「いえ、勉強というほどのことはしていません。信じていただけです。名前はラルフと申します。姓は忘れました。父は死にました」
博士「お父さんは、あなたと同じく死んでませんよ」
スピリット「勿論私は死んでいません。いっそのこと死んでしまいたかったくらいです。お願いです。私をどこかへ連れて行って、死ねるように殺してください(R夫人もしばしば「殺して」と頼んでいた)。
 あっ、また奴らが来る!白状なんかするもんか!白状したら最後!牢へぶち込まれるに決まってる。あんな思いはもう沢山だ」
博士「ご自分の身の上についての無理解が、あなたをいつまでも暗闇の中に閉じ込めることになるのです。白状なさい。悪いようにはしませんから」
スピリット「それが、しようにも出来ないのです。前にもしようとしたのですが、どうしても出来ませんでした。私の過去の映像が目の前に立ちはだかるのです」
博士「おっしゃってることから察するに、あなたは明らかに人間に憑依していて、あなた自身が自殺しようとして、実際はその人達を自殺させてしまったのでしょうね。時折、ご自分でも変だなと思うような状態になったことはありませんか」
スピリット「自分がどうなっているかを考えてみたことはありません。(急に驚いて)あっ!アリスだ!嫌だ、嫌だ、怖い!アリス、僕は本当はあんなことをするつもりじゃなかったんだ。頼む、アリス、もう責めないでくれ!」
博士「お二人の間でどういうことがあったのかを話してくだされば、我々が救ってあげられるのです」
スピリット「二人で一緒に死のうと誓い合ったのに、死んでなかったのです。アリス、なぜ殺してなんて言ったのだ?なぜ言ったのだ?君を先に撃ってから自分を撃った。が、僕が死ぬことが出来なかった。ああ、アリス、アリス!」
博士「今では多分、アリスの方が事情が分かっているはずですよ」
スピリット「彼女が言っています-「ラルフ、私達二人共馬鹿だったの」と。では、あなたに全てを打ちあけます。言い終わったところで逮捕されるでしょうけど・・・・。
 アリスと私は、結婚を誓い合った仲でした。ですが、アリスの両親が私を気に入ってくれなくて、結婚に反対したのです。しかし二人とも心から愛し合っていたものですら、いっそのこと心中しようと決めたのです。先にアリスを殺し、続いて私が自分を撃とうと・・・・。そして、その通りにやったのですが、私はどうしても死ねませんでした。アリスがそこに来ているところを見ると、彼女も死んでなかったようです。
 あの時、アリスは私に向かって「さ、早く殺して!早く、早く殺して!何してるの、早くやってよ」と叫びました。私は深く愛していましたから、どうしても引き金が引けません。でも、アリスは、殺して殺してと言い続けています。家にも帰れない、結婚も出来ないのなら、二人で死ぬしかないじゃないの、と言います。
 といって、アリスは自分でピストルを撃てません。私にもその勇気はありません。が、アリスがあんまりせがむものですから、ついに私は目をつむってアリスを撃ちました。そして、彼女の身体が倒れてしまわないうちに自分を撃ちました(実際は、それで二人とも死んでいる)。
 ところが、アリスの倒れている姿が見えます。私は怖くなって、起き上がって逃げました。逃げて逃げて逃げまくり、今もまだ走ったり歩いたりしながら逃げているところです。なんとかして忘れようとするのですが、どうしても忘れられません。
 時折、アリスが姿を見せます。が、私は「僕が殺したんだ。近づかないでくれ」と言って逃げ出しました。警察からも、誰からも逃げてまわりました。そのうち、自分が年のいった女性になったような感じがして、それが暫く続きました。そのうち脱け出たように思いますが、暫くすると、また同じ女性になったような気がしました」
博士「その時、あなたは人間に憑依していたのですよ」
スピリット「憑依?それはどういうことですか」
博士「聖書に、汚れたスピリットを取り除く話がありますね?」
スピリット「ええ、あります。でも私は、その女性になった時も、死にたいと思っていました。なのに、死ねなかったのです。その女性が私に付きまとうのを振り払うことも出来ませんでした。もうこれ以上付きまとわれるのはご免です。(急に興奮して)あっ、アリスだ。来るんじゃない!
  私があの女性といる時に、あの稲妻みたいなものを浴びせられました。私を殺そうとしているのだと思い、私も死んでしまいたいと思いました(患者のR夫人は、電気治療を施すと、いっそのこと殺してくれと叫んでいた)。稲妻みたいで、私に命中はするのですが、それでも死にませんでした」
博士「あの火花は、私達が治療している患者の一人に流した静電気の反応です。あなたはその患者に取り憑いておられたのです。その女性もあなたと同じように、死にたい死にたいと言っていました。あなたが乗り移っていたからで、その方の人生を台無しにするところでした。
 幸い、あの電気であなたをその方から離すことが出来て、これでその方は正常になられることでしょう。あなたも、もうすぐ救われますよ。
 ここをお出になったら、アリスについて行ってください。アリスがあなたの事情をよく説明してくれますよ。あなたは肉体をなくしていることに気づかずに、まだ地上で生きているつもりでいるようですね。あなたもアリスも、スピリットになって生き続けているのです。人間の目に見えないスピリットになっていて、あなたは今、私の妻の身体に宿って話しておられるのです。スピリットと精神は永遠に滅びないのです」
スピリット「私にも、心の安らぎが見いだせるでしょうか。一時間でもいいから、心の安らぎが欲しいのです」
博士「一時間どころではありませんよ。あなたの前途には、永遠の安らぎが待っております」
スピリット「私の行為は許されるのでしょうか」
博士「それだけの懺悔の気持ちと苦しみで、もう許されるに十分ですよ。これからも辛抱して、進んで真理を学ぶことです。そうすれば救われます」
スピリット「おや、母さんだ!母さん!僕はもう、息子と呼んで頂く値打ちもない人間になってしまいました。母さんのことはずっと心にありましたが、今はもう、近づいて頂ける人間ではありません(すすり泣く)。
 ああ、母さん、こんな僕を許してくださいますか。こんなわがまま息子を迎え入れて頂けますか。これまでの僕は、ああ、本当に苦しい目にばかりあってきました。許してくださるのなら、私を連れて行ってください。母さん!」
博士「お母さんは何とおっしゃっていますか」
スピリット「「何を言ってるのかい。母親の愛情はそんなことくらいで消えるものじゃないよ。これまで何度お前に近づこうと努力してきたことか。でも、お前はいつも逃げてしまって・・・・」と」

 ここで息子が去り、母親の手に預けられた。代わってその母親が出て、お礼の挨拶を述べた。それを紹介しておく。

[スチーブンソン夫人の挨拶]
「今ようやく息子と一緒になれたところです。私は永い間息子と接触しようと、随分努力したのですが、駄目でした。今度こそと思って近づいていく度に、あの子は私から逃げるのでした。私の姿は何度も見えていたのです。が、怖がったのです。それは、人間は死ねばもうおしまいという間違った信仰を教え込まれていたからです。それが、人間が死者の出現を気味悪がる理由でもあります。
 人間に(死)はないのです。霊的な生活の場へと移るだけなのです。その事実を理解している人は美しい境涯へと参ります。地上にいる間に死後の世界について大いに学んでおくべきです。
 自分の人生とは何か、自分とは何なのかについて、しっかりと勉強しておいてください。そうしないと、私の息子のようなことになります。あの子は、私と恋人、それに地上で見かけた警官から逃れようとして、何年もの間走り続けておりました。
 あの子は、暫くの間、一人の婦人に憑依していて、事情が分からないものですから、その方の磁気オーラにひっかかったままになっておりました。一種の地獄の中にいたわけです。火の地獄ではなく、いわば[無知]の地獄です。
 死は、いつ訪れるか分からないのですから、いつしか行くことになっている世界について、どうか、今から知っておいてください。死のベールの彼方にあるものを、あらかじめ知っておくのです。そうすれば、この世に別れを告げるべき時が訪れた時に、しっかりと目を見開いて霊界へ入り、私の息子のように地縛霊とならずに、赴くべきところに赴くことが出来るのです。
 かわいそうに、息子は今、すっかり疲れ果て、精神的に病んでおります。これから私が看病しながら、永遠の生命について教えていくつもりです。そうすれば、霊界の美しい境涯を実感するようになるでしょう。
 信じるだけではいけません。それでは進歩がありません。他人のために生き、他人のために役立つことをするという[黄金律]を実践しないといけません。そういう生活をしていれば、スピリットの世界に来てから幸せが得られます。
 息子へのご援助に感謝申し上げます。母親の愛は強いものでございます。今度、息子をご覧になった時は、全ての疑念も無くなっていて、ずっと立派な人間となっていることでしょう。疑念は精神的な壁のようなものです。生と死の間に自分自身でこしらえているのです。その壁があるかぎり、親子といえども、一緒になれないのです。
 その疑念に囚われていた息子は、私を見るとすぐに逃げ出し、アリスも近づけませんでした。まだ地上にいるつもりで、自殺が成功しなかったと思い込んでいたのです。そうしているうちに、ある感受性の強い女性と波長が合ってしまい、その方に憑依してしまいました。本人はそれを、牢に入れられたように思っていたようです。
 今夜は、私の息子の為に皆様のお手を患わせ、心から感謝しております。このお仕事に、これからも神の祝福がありますように。さようなら」