以下の文章は、[霊との対話]という、霊的知識の書物から抜粋した文章です。また、自殺に関するその他の霊的知識は、[自殺してはならない霊的な理由]に書かれています。

 七、八ヶ月前から、ルイ・Gという靴職人が、ヴィクトリーヌ・Rという縫い子に言い寄っていた。そして、既に結婚の告示がなされたことから分かるように、ごく近いうちに二人は結婚することになっていた。事態がここまで進み、二人はもう結婚したも同然の気分になっていたし、また、節約の意味もあって、ルイは毎日、彼女のところに食事をしに来ていた。

 ある日、いつものようにルイがヴィクトリーヌのところで夕食をとっている時に、二人の間に些細なことから口論が持ち上がった。二人共譲らず、ついにルイが怒って椅子から立ち上がり、「もう二度と来るものか!」と捨て台詞を吐いて出て行った。
 翌日になると、それでもルイは謝りに来た。夜の間に頭を冷やしたのだ。しかし、すっかり頑なになっていたヴィクトリーヌは、ルイが抗議しても、泣いても、絶望してみせても、頑としてはねつけた。何をしても説得に応じなかったのである。
 仲たがいから数日が経った。ルイは、ヴィクトリーヌの気持ちもそろそろ治まっただろうと思い、これが最後のつもりで彼女を説得しに行った。彼女の家に着き、二人の間で決めていたやり方でドアを叩いた。しかし、ドアは開けられなかった。そこでルイは、ドア越しに、また新たに懇願し、新たに抗議した。だが、何をしても、すっかり頑なになってしまったヴィクトリーヌは心を開かなかった。
 「そうか、そんなに意地を張るなら、もういい。分かったよ。これでお終いさ!永久にお別れだ。俺以上にお前を愛してくれる別の男を見つけるんだな!それじゃあな!」
 それと同時に、ヴィクトリーヌは押し殺されたうめき声のようなものを聞いた。それから、ドアを激しくこするような音がして、その後、完全に静かになった。
 ヴィクトリーヌは、ルイはドアの前で待つつもりなのだと思い、ルイがそこにいる限り、絶対に外には出まいと思った。
 15分程した時、借家人の一人が明かりを持って踊り場を通りかかった。そして、びっくりした声を上げ、「誰か来てくれ!」と叫んだ。隣人達が駆けつけ、ヴィクトリーヌもドアを開けて出て行ったが、そこにルイが青ざめて倒れいるのを見て恐怖の叫びを上げた。
 みんなが何とか助けようと試みたが、やがてそれが無駄であることを悟った。既にルイはこと切れていたのである。ナイフは心臓まで達していた。

 1858年8月、パリ霊実在主義協会にて。
-(指導霊に対して)ヴィクトリーヌは、図らずも恋人を死に至らしめることになった訳ですが、彼女に責任はあるのでしょうか?
 「あります。彼女はルイを愛していなかったからです」
-では、惨劇を避けるためだったら、嫌気のさした男とでも結婚しなければならなかったのでしょうか?
 「彼女はルイと別れられるよう、機会をずっと窺っていたのですが、実は二人の関係が始まった時点からそうだったのです」
-ということは、「彼女はルイのことを愛してもいないのに、関係を続けた」ということですか?それでは、ルイを弄んだことになり、そのためにルイは死んだのですか?
 「まさしくその通りです」
-彼女の責任は、この場合、彼女の過ちの度合いに比例して大きくなると思うのです。意図的にルイを死なせたという場合に比べれば、まだ責任は小さいのではないでしょうか?
 「それはまったく明らかです」
-「ヴィクトリーヌの頑なさを前にして錯乱した結果、自殺した」ということですから、ルイの罪はそれほど深くないと思えるのですが。
 「そうですね。ルイの自殺は、愛ゆえの自殺ですから、卑怯であるがゆえに人生から逃げようとして自殺したケースに比べれば、神の目からして、それほど罪深いものとはされないでしょう」

 次に、ルイの霊を呼んで、色々と聞いてみた。

-自分のしたことをどう思っていますか?
 「ヴィクトリーヌは不実な女です。彼女のために自殺するなんて、完全な間違いでした。あれはそんなことに値しない女です」
-つまり、彼女はあなたを愛していなかったのですか?
 「はい、愛していませんでした。最初は、愛していると思い込んでいたようですが。でも、それは錯覚だったのです。私が騒ぎ立てたことで、彼女はそのことに気が付きました。そこで、それを理由にして私をお払い箱にしようとしたわけです」
-で、あなたはどうなのですか?彼女を本当に愛していたのですか?
 「むしろ、『彼女を欲していた』ということではないでしょうか。もし、本当に彼女を愛していたのなら、彼女に苦痛を与えたいとは思わなかったはずですから」
-あなたが本当に死ぬ気でいたと知っていた場合でも、彼女は拒み続けたでしょうか?
 「分かりません。しかし、そうは思いたくありません。というのも、根は優しい女だからです。もし、知っていてそうしていたら、彼女はきっとものすごく不幸になっていたでしょう。かえってあんなふうになったほうが、彼女にとってはいいことだったのです」
-彼女の家のドアの前に行った時、もし拒まれたら死んでやろうと思っていましたか?
 「いいえ、思っていませんでした。あれほど強情を張るとは思っていなかったからです。彼女が頑なになったために、私の感情が激したのです」
-あなたが自殺を悔やんでいるのは、「ヴィクトリーヌがそれに値しない女だったから」というだけの理由によるようですが、それ以外に感じていることはないのですか?
 「現時点では、ありません。まだ気持が混乱しているのです。ドアのそばにいるように思われるのです。他のことはうまく考えられません」
-そのうち、分かるようになるでしょうか?
 「多分、混乱が治まれば分かるようになると思います。
 私がしたことはよくないことです。彼女はそっとしておいてやる必要があると思います。私が弱かったのです。それを思うと辛いです・・・・・。
 男は、情熱に囚われて盲目になると、馬鹿なことをしでかすものです。あとになってみないと、それがどれ程馬鹿げているかが分からないのです」
-あなたは、「辛い」と仰いましたが、どんな感じなのですか?
 「命を縮めたのは間違いだったのです。あんなことはすべきではありませんでした。まだ死ぬべき時期ではなかったので、すべてを耐える必要があったのです。
 今は、不幸を感じています。苦しいのです。未だに彼女のせいで苦しんでいるような気がします。未だに、あの、つれない女の家のドアの前にいるような気がするのです。
 もうその話は止めて下さい。そのことは考えたくないのです。苦しくて、そのことはもうこれ以上考えられません。さようなら」

 ここには、またしても、新たな配分的正義の例が見られるように思う。すなわち、「罪を犯した者は、その罪の程度に応じて罰せられる」ということである。
 この例では、まず悪いと思われるのは娘の方である。自分が愛していない男が自分を愛しているのを見て、その愛を弄んだ。したがって、責任はほとんど彼女のほうにあると言えよう。
 男に関して言えば、彼は自分がつくり出した苦しみによって罰せられた。しかし、苦しみといっても、それほど酷い苦しみではない。というのも、彼は、一時的な興奮に身を任せて、軽率に行動してしまっただけであり、じっくりと考えて、人生の試練から逃れるために自殺したのではないからである。