入神(トランス)状態における霊媒はどんな役割を演じているのか-ある日の交霊会でそれが問題となったことがある。そのきっかけはシルバーバーチが霊媒のバーバネルが入神状態から睡眠状態へ移りそうなのでコントロールがしにくくなったと述べたことにある。そして〝私にはそうなるとまずいのです〟と言うと、サークルの一人が〝なぜですか〟と尋ねた。すると〝私はこの霊媒の身体の全体をコントロールしなければならないからです〟と答えた。

-霊媒が眠ってしまうとコントロール出来ないのですか。

 「出来ません。身体を操るには潜在意識を使用しなければなりません。眠ってしまうと潜在意識が活動を停止します」

-でも、どっちにせよ、霊媒はその身体から出るのではないでしょうか。

 「いえ、霊媒自身が身体の中にいるか外にいるかの問題ではありません。潜在意識とその機能の問題であり、それは中でもなく外でもありません」

-私は霊媒は脇へ押しやられていると思ってました。

 「それはそうなのですが、一時的に身体からは離れているというだけのことです(身体から離れていても意識状態には関係ないということ-訳者)。それは霊媒が自ら進んで身(潜在意識)を任せている状態で、潜在意識まで引っ込めてしまうのではありません。そうなると睡眠状態になってしまいます。霊媒現象は全て霊界と地上との間の意識的な協力関係で行われます。無意識の内に潜在能力が一時的に使用されるケースが無いわけではありませんが、支配霊と霊媒という関係で本格的な霊的交信の仕事をするとなると、その関係は意識的なものでなければなりません。つまり霊媒現象に関係するあらゆる機構に霊媒が進んで参加することが必要となります」

-睡眠中の霊媒が(支配霊以外の霊によって)使用されて通信が届けられたケースがあったように思いますが・・・。

 「そういうこともあったかも知れませんが、それは通常行われるべきプロセスが逆転した状態です」(訳者注-冒頭でシルバーバーチが霊媒が眠ってしまいそうなので通信しにくくなったと述べたが、逆に眠っていた潜在意識が引き戻されて通信を送るということ)

-その場合、睡眠中にそういう形で使用されることを霊媒自身も同意していたということが考えられますか。

 「それは考えられます。ただご承知のように、私共は霊媒の望みはよほど下らぬことでない限りは敬意を払い、然るべき処置を取ります。しかし、言うまでもなくこの身体は私共の所有物ではありません。居住者であるバーバネルのものです。こうして私共が少しの間お借りすることを許してくれれば結構なことであり有り難いことですが、その許可もなしに勝手に使用することは道義に反します。その身体を通じて働く様々な霊的エネルギーに対して霊媒と私達の双方が敬意を払った上で、気持よく明け渡すというのが正しいやり方です」

 その潜在意識がどのように使用されるかを聞かれて-
 「そのことに関して随分誤解があるようです。精神(大半が潜在意識)には様々な機能があります。人間というのは自我意識を表現している存在といってよろしい。意識が全てです。意識そのものが〝個〟としての存在であり、個としての存在は意識のことです。意識のある所には必ず個としての霊が存在し、個としての霊が存在する所には必ず意識が存在します。あなた方の物質界においては自我の全てを意識することは出来ません。なぜならば-あなた方に分かり易い言い方をすれば-自我を表現しようとしている肉体(脳)よりも本来の自我の方が遙かに大きいからです。小は大を兼ねることが出来ません。弱小なるものは強大なるものを収容することが出来ないのが道理です。
 人間は地上生活を通じて、より大きな自我のホンの一部しか表現しません。大きい自我は死んでこちらへ来てから自覚するようになります。死んで直ぐに全部を意識するようになるのではありません。やはりこちらの生活でもそれなりの身体を通して、霊的進化と共に少しずつ意識を広げていくことになります。
 意識的生活のディレクターであり個的生活の管理人である精神は、肉体的機能の全てを意識的に操作しているわけではありません。日常生活において必要な機能の多くは自動的であり機械的です。筋肉、神経、細胞、繊維等々が一旦意識的指令を受け、更に連繋的に働くことを覚えたら、その後の繰り返し作業は潜在意識に委託されます。
 例えば、物を食べる時皆さんは無意識の内に口を開けています。それは、顎が動く前にそれに関連した神経やエネルギーの相互作用があったことを意味します。すなわち精神の媒体である脳から神経的刺激が送られ、それから口を開けて、物を入れ、そして噛むという一連の操作が行われます。全てが自動的に行われます。一口毎にその操作を意識的に行っているわけではありません。無意識の内にやっております。潜在意識がやってくれているのです。赤ん坊の時はその一つひとつを意識的にやりながら記憶していかねばなりませんでした。しかし今は一々考えないで純粋に機械的に行っております。
 こうして皆さんの身体上の、そしてかなりの程度まで精神的機能も、大部分が潜在意識に委託されていることがお分かりになるでしょう。潜在意識というのは言わば顕在意識の地下領域に相当します。例えば皆さんが本を読んでいて途中で、これはどういうことだろう、と自問すると即座に答えが閃くことがあります。それは潜在意識が普段から顕在意識の思考パターンを知っているので、それに沿って答えを生み出すからです。誰かの話を聞いている時でも同じです。〝あなたはどう思いますか〟と不意に聞かれても即座に潜在意識が答えを出してくれます。
 ところが日常的体験の枠外の問題に直面すると、それは潜在意識が体験したことも、或いは解決したこともないことですので、そこで新たな意識操作が必要となります。新しい回線を使用することになるからです。しかしそうした例外、つまりオリジナルな思考-という言い方が適切かどうかは別として-を必要とする場合を除いて、人間の日常生活の大部分は潜在意識によって営まれております。言わば潜在意識は倉庫の管理人のようなものです。あらゆる記憶を管理し、生きる為の操作の大半をコントロールしています。その意味で人間の最も大切な部分ということが出来ます。
 その原理から霊媒現象を考えれば、そもそも霊媒現象というのはそれまで身体機能を通して表現してきた自分とは別の知的存在が代わって操作する現象ですから、顕在意識の命令に従って機能することに慣れている潜在意識を操作する方が楽であるに決まっています。命令を受けることに慣れているわけです。仕事を割り当てられ、それをよほどのことがない限り中断することなく実行することに慣れております。
 霊媒現象の殆ど全部に霊媒の潜在意識が使用されています。その中に霊媒の人物の本当の姿があるからです。貯蔵庫とも言うべき潜在意識の中にその人物のあらゆる側面が仕舞い込まれているのです。こうした入神現象において支配霊が絶対に避けなければならないことは、支配の仕方が一方的過ぎて、霊媒が普段の生活で行っている顕在意識と潜在意識の自動的連係関係がいつものパターン通りに行かなくなってしまうことです。その連係パターンこそがこの種の現象の一番大切な基本となっているからです」

-霊媒の方が潜在意識を大人しくさせる必要があるということでしょうか。

 「そうではありません。支配霊の個性と霊媒の個性とが完全に調和し、その調和状態の中で支配霊自身の思念を働かせなければなりません。同時に支配霊は、他方において、丁度タイプライターのキーを押すと文字が打たれるような具合に、霊媒の潜在意識の連係パターンをマスターして、他の知的存在の指令にすぐさま反応するように仕向けなければなりません。それが支配霊として要求される訓練です。先程述べたことを絶対に避ける為の訓練といってもよろしい。
 ここで皆さんも容易に得心して頂けることと思いますが、霊媒現象は霊媒という生きた人間を扱う仕事であり、霊媒には霊媒としての考えがあり偏見があり好き嫌いがありますから、今も述べたように、〝支配する〟といってもある程度はそうした特徴によって影響されることは免れません。霊媒を完全に抹殺することは出来ません。どの程度までそうした影響が除去出来るかは、支配霊がどの程度まで霊媒との融合に成功するかに掛かっています。もし仮に百パーセント融合出来たとしたら霊媒の潜在意識による影響はゼロということになるでしょう。
 霊媒を抹殺するのではありません。それは出来ません。融合するのです。霊媒現象の発達とはそれを言うのです。サークル(円座-シルバーバーチの交霊会ではバーバネルが普段使っている書斎の椅子に座り、そこから左右にほぼ円形にメンバーが席を取る-訳者)の形を取るのはその為です。出席した人達全員から出るエネルギーがその融合を促進する上で利用されるのです。調和が何より大切ですと申し上げるのはその為です。出席者の間に不協和音があるとそれは霊媒と支配霊の融合を妨げるのです。交霊会の進行中は絶え間なく精神的エネルギーが作用しているのです。あなた方の目にお見せ出来ませんが、出席者の想念、思念、意志、欲求、願望の全てが通信に何らかの影響を及ぼしています。支配霊が熟練している程、経験が豊富である程、それだけ霊媒との調和の程度が高く、それだけ潜在意識による着色が少なくなります」

-その説からいうと、霊媒はなるべく支配霊と似通った願望や性格の持ち主がよいことになりませんか。

 「一概にそうとも言い切れません。これは異論の多い問題の一つでして、私共の世界でも意見の相違があります。忘れないで頂きたいのは、私達スピリットも人間的存在であり、地上との霊的交信の方法について必ずしも全ての点で意見が一致しているわけではありません。
 例えば無学文盲の霊媒の方が潜在意識による邪魔が少ないので成功率が高いと主張する者がいます。それに対して、いや、その無知であること自体が障害となる-それが一種の壁を拵えるのでそれを崩さねばならなくなるのだ、と反論する者がいます。安物の楽器よりも名匠の作になる楽器の方がよい音楽を生むのと同じで、霊媒は教養がある程よい-よい道具程通信を受け易いのだと主張するのです。私はこの意見の方が正しいと思います」

-なぜ教養の有る無しが問題とされるのでしょう。人格の問題もあるのではないでしょうか。

 「私は今トランス状態での通信の話をしているのです。人間性の問題は又別の要素の絡んだ問題です。私は今霊言が送られる過程を述べているのです。通信の機構(メカニズム)と呼ばれても結構です。それを分かり易く譬えて言いますと、バイオリニストにとっては名器のストラディバリウスの方が安物よりも弾き易いでしょう。楽器の質の良さが良い演奏を生むからです。安物では本当の腕が発揮出来ません。
 霊媒の人間性の問題ですが、これは霊言の場合ですと通信内容に、物理現象の場合ですと現象そのものにその影響が出ます。物理霊媒の場合、霊格が低い程-程度の問題として述べているだけですが-例えばエクトプラズムの質が落ちます。物質的にでなく霊的観点から見てです。霊側と霊媒とを繋ぐ霊力の質は霊媒の人間性が決定付けるのです。例えば地上ならさしずめ聖者とでも言われそうな高級霊が人間性の低い霊媒を通じて出ようとしても(注)、その霊格の差の為に出られません。接点が得られないからです」(注-ここで言う〝出る〟とはエクトプラズムで拵えた発声器官(ボイスボックス)で喋る場合-直接談話現象-と、同じくエクトプラズムを身に纏って姿を現す場合-物質化現象-とがある-訳者)

-物理現象においても霊媒の潜在意識が影響を及ぼすように思えるのですが、その点についてご説明願えませんか。

 「交霊会の鍵を握っているのは霊媒です。霊媒は電話機ではありません。電信柱ではありません。モールス信号のキーではありません。生きた器械です。その生命体のもつ資質の全てが通信に影響を及ぼします。
 それで良いのです。もしも霊界と地上との行進の為の純粋の通信器械が出来たら-そういうものは作れませんが-それによって得られる通信は美しさと宗厳さが失われるでしょう。いかなる交霊会においても鍵を握るのは霊媒です。霊媒なしでは交霊会は出来ません。霊媒の全資質が使用されるのです。例えばメガホン一本が浮揚するのも、物質化像が出現するのも、その源は霊媒にあります。そして霊媒のもつ資質が何等かの形でその成果に現れます」