スピリチュアリズムの発展途上において、もう一つ大きな時期を画したものに、1869年に公表された<弁証法学会・調査委員会報告書>がある。この学会は様々な知的職業に携わる学者によって構成されたもので、その目的は心霊現象の事実性を追求することにあった。
 メンバーの内訳は、神学博士・内科医・外科医・エンジニア・二つの理科学会の代表・弁護士・思想家その他。更に証人として招待された人の中には、博物学者のアルフレッド・ウォーレス、霊能者のエマ・ハーディング女史、D・D・ホームなどがおり、更に、文書で証言を寄せた人の中には、詩人で政治家のリットン卿、天文学者のカミーユ・フラマリオンなど、各界の著名人がいて、そうした人々を入れると総勢五十名を超えていた。
 委員会は六つの小委員会に分かれていて、部門別に四十回に及ぶ実験会を催している。その結果を報告書は次のように纏めている。

一、重量のある物体-時には人間-が何の支えもなしに上昇し、暫く宙に浮いているところを目撃したと証言した者、十三名。
二、出席者とは全く別の人間又はその一部が出現し、それを手で触れたり握ったりして確認した者、十四名。
三、出席者全員の両手が見える状態の中で、それらとは全く別個の手によって身体のあちらこちら-時にはこちらから要求した箇所-を触れられたと証言する者、五名。
四、五感で確認した限りでは、一切手を触れられていない楽器が、ひとりで曲を演奏したと証言する者、十三名。
五、霊媒が真っ赤に燃えている石炭を手のひら、又は頭部に置いても、火傷も毛髪の焦げも認められなかったと証言する者、五名。自分も同じ実験をして平気だったと証言する者、三名。
六、叩音(ラップ)、筆記、その他の方法でその時は知らなかった事実を知らされ、後で確認して本当であることが判明したと証言する者、八名。
七、それとは反対に、細かい情報を知らされながら、それが全く間違いであることが判明したことを証言する者、一名。
八、人間業では不可能な速さで鉛筆と絵具を使って何枚かの絵が描かれたことを証言する者、三名。
九、何日か前、或いは何週間か前になされた予言がその通りに実現した-何時何分まで正確だったものもあった-と証言する者、六名。

 この他にも入神談話・病気治療・自動書記・密室における花や果物の物品引寄(アポーツ)現象・直接談話などについての証言もある。<報告書>は次の〝確信〟の表明をもって締めくくっている。

 《本委員会は、右に紹介した事実よりも更に驚異的な現象が存在することを証言する多くの証人の高潔な性格と高度の知性、小委員会によって支持されている証言の多さ、多岐にわたった現象で一切の詐術も錯覚も存在しなかったという事実、更には、現象の異常さと、それにも係わらず全文明国のあらゆる階層においてその超自然的原因について大なり小なり関心を抱いている人達が極めて多いという事実、しかもその合理的説明が未だに得られていないという事実、等々に鑑みて、この分野はこれまで以上の真剣かつ慎重な調査・研究に値するとの確信を表明する義務があると考える》

 これでお分かりのように、この調査委員会のメンバーの構成にも調査報告書にも、偏見というものは全く見られない。公表されたのが1869年で、以来、半世紀近い歳月が流れている。その間に出された研究成果や見解は大変な量に上るが、一部を除いて、この委員会の報告書を凌ぐものは出ていない。にも係わらず、当時のジャーナリズムはこぞって嘲笑的態度を取った。もしも内容が正反対のものだったら、こぞって賞賛の拍手を送っていたであろうことは想像に難くない。