以上で、死んだと思っていた我々の先輩が実はどこかで生き続けていて、その一部の人達と連絡が取れたということが、間違いない事実であることに納得がいかれたことと思う。
 そこで、当然生じて来る次の関心は、彼らは今どこでどうしているのか、どういう環境の下で生活しているのかということであろう。これは我々にとっても大問題である。なぜなら、死はいずれ我々に例外なく降りかかってくる問題であり、もしかしたら明日にでも彼らのいる所へ赴くことになるかも知れないからである。
 嬉しいことに、これまでに得た〝便り〟は楽しいことばかりである。人類へのメッセージとして、これほど重大な意味を持つものはないと私は考える。いたずらに恐怖と幻想の世界へ閉じ込めてきた、おどろおどろしい想像の産物である天国と地獄などは、どこにも見られない。いずれも〝健全〟であり、〝穏当〟であり、〝段階的進化〟の大原則にも適っていて、〝理性〟が納得するものばかりである。創造主の概念も、これまでのような、わがままで執念深い虐待者のイメージなどは、微塵も見られない。
 地上生活の全てを述べて尽くすことが不可能であるように、死後の世界についても、その全てを語り尽くすことは不可能である。しかし、人類史上、この度程具体性をもって語られたものは他に見当たらない。
 そう判断する大切な根拠は、スピリットからのメッセージの中に、自分達の世界のことばかりでなく、我々の地上世界についての正確な情報も含まれているということである。地上世界の事情に通じている者が、自分自身がいる世界について間違ったことを伝えてくるということは、ちょっと考えにくい。
 そして、もう一つ大切な根拠は、無数の霊能者を通じて届けられている情報に驚く程の共通項があるということである。〝正真正銘〟のレッテルを貼る審査基準というものは存在しなくても、人間の常識的判断基準に照らしてみた時、その全てに適っている。
 そうしたメッセージ、私の言う新しい啓示を公表した書物は、駅の売店や市民図書館などでは見かけない。が、それでいて信じられない程のロングセラーを続けているという事実は、無理解による障害は色々とありながらも、人知れず求道に励んでいる人々がいることを物語っていると私はみている。そうしたロングセラーの一冊として、これから『レーモンド』を取りあげて、その概略を紹介したい。

〝死〟を隔てた父と子の感動的体験

 これは大型判の四百ページから成る大著で、〝生と死〟という副題がついている。三部で構成されており、第一部は長男であるレーモンドの生い立ちから戦死に至る短い一生が追憶の形で語られている。第二部はロッジ卿自身が複数の霊媒を通じて得た超常体験で、これが本書の主題である。そして第三部は「生と死」と題するスピリチュアリズム思想を土台としたロッジ卿の生命観で、科学者であると同時に哲学者でもある卿の高邁な思想が披露されている。
 第二部の超常体験には生前親交のあったフレデリック・マイヤースやリチャード・ホジソンなどからの通信に基づくものが多く、ロッジ卿自身は早くから死後の個性存続を信じていたが、その後、戦死した息子にまつわる体験が連続して発生するに及んで、その確信は揺ぎ無いものとなった。その中から戦地での写真にまつわるエピソードを紹介しておくと-
 レーモンドが戦死したのは1915年9月14日である。それから二週間後に開かれたピーターズという霊媒による交霊会で、ムーンストーンと名乗る支配霊がこう述べた。
 「お子さんが戦死される前に立派な写真を撮っておられますね。二枚・・・いや三枚。二枚は一人だけのポートレートで、もう一枚は他の将校達と一緒のもので、お子さんはそのことをしきりに告げて欲しがっておられます。その一枚にはステッキを手にした姿で移っているそうです」
 この時点でのレーモンドの軍服姿の写真は、戦地へ赴く前に撮った前向きと横向きの二枚のポートレートがあるのみで、グループで撮ったものがあることはロッジ家の者は知らなかった。そこで関係者を通して調査してもらったところ、その事実に間違いないことが明らかとなった。そして十二月になってその写真が送り届けられた。同じ頃、戦地から届けられたレーモンドの遺品を片付けていた母親が、〝戦場日誌〟の中に〝写真撮影、八月二十四日〟という記載を見つけた。ロッジ夫人はその時のことをサイン入りでこう証言している。

 《四日前(十二月六日)、私は戦地から届けられたレーモンドの遺品の中にあった日誌をめくっておりました。縁に血がついており、その血でページとページが引っ付いている箇所もありました。その時ふと、そのページの一つに〝記念撮影〟とあるのを見つけて驚きました。日付は八月二十四日となっておりました。私はそのことを、その日の日記にこう書き入れました-<十二月六日。初めてレーモンドの日誌を読み、〝写真撮影、八月二十四日〟の記録を確認>と。
 一九一五年十二月十日  メアリ・ロッジ》

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 本書の価値は、当時の著名な霊媒、それもたった一人でなく数人を通して個別に入手した情報を、当時のヨーロッパの知性を代表する世界的な科学者が細かくチェックした上で編纂したという点にある。霊界の聡明な息子と、必死に真相を求める地上界の父親との、真剣でしかも愛情溢れる交霊は、初めて霊的なものに触れる人はもとより、既に交霊というものの実在を信じている人にも改めて感動を与えずにはおかない。
 私は、これは人類にとっての貴重なドキュメント-もしかしたら近代における最も重要な文献の一つであると言っても過言ではないと思っている。とにかく死後の世界の実在を扱ったものの中でも、とりわけ信頼度の高いものであることだけは確かである。
 それも、一方的に霊界側から主張してきたものと違い-そういうものと率直さと真摯さがあってそれなりに良さがあるのであるが-一見なんでもなさそうな事柄を時間を掛けて一つ一つ押さえていく手法が用いられてあって、かえって説得力がある。