他界して間もない知人が出現したのでモーゼスが尋ねた。
-そちらの世界は地上とよく似ていますか。

 「何もかもよく似ています。違いを生じさせているのは条件の変化だけです。花も果実も景色も動物も小鳥も、地上とそっくりです。ただ、その構成要素の条件が異なるだけです。人間のように食べ物にガツガツすることがなく、従って生きる為に動物に殺生をすることもいりません。呼吸する空気と共に摂取するもの以外には、身体の維持に必要なものはありません。又行動が物的なものによって制約されることもありません。意のままに自在に動けます。私は今そうした新しい生活条件に少しずつ、それこそ赤ん坊のように、慣れていきつつあるところです。その現実の様子はとてもお伝えできません」

 〝S〟の署名で通信を送って来ていた人物がモーゼスの友人だったウィルバーフォース(英国の政治家・奴隷解放運動家)であることが判明。そのウィルバーフォースがこう綴った。
 「こちらでも地上と同じく寄り集まって暮らしております。共同体を形成しており、やはり地上と同じように叡智と霊性の高い者によって統治されています。全てがよく似ております。ただ、行為の一つ一つが普遍的な愛の精神に発しております。摂理への背反は高級霊によるその結果の指摘及び矯正の為の教訓という形での罰を受けます。それを何度も繰り返していると、もう一段低い界層へ移動し、再び霊格が相応しくなるまで上れません」

 このことに関連してインペレーターがこう付け加えた。
 「貴殿の友人が今述べたのは低界層で彼が見た印象を述べたに過ぎない。そこでは霊が共同体の形で生活しており、高級指導霊の下で、より高い境涯への準備を行なっている。そこは試練と準備の境涯で、より高度な仕事への訓練を受けるところである。いかなる霊も霊性の相応しくない境涯に存在することは出来ない」

-そうした境涯はどこに存在するのですか。

 「それは〝状態〟のことである。貴殿の友人はまだ他界直後に置かれる地球圏の界層を脱け出ていない。似たような界層は他の惑星にも存在する。界層といっても〝状態〟のことであり、類似した状態はどこにでも存在出来るし、現に存在している。人間が空間と呼んでいるところに無数の霊の住処が存在している」

 その友人のウィルバーフォースがインペレーターの容姿を次のように描写している。
 「初め私は高級霊達が身に付けている光り輝く衣服を見て不思議でなりませんでした。例えば今のインペレーター霊の外衣(ローブ)は目も眩まんばかりの白色をしており、まるで純粋無垢のダイヤモンドで出来ていて、それが鮮やかな光輝を当てられているみたいに見えます。肩の回りにサファイヤブルーをしたものを掛けておられ、頭部には深紅の飾り環にはめ込まれた栄光の王冠が見えます。飾り環は愛を象徴し、サファイヤブルーの衣服は叡智を象徴し、光り輝くローブは聖純さと完全性の高さを象徴しております」

-素晴らしい!王冠はどんなものですか。

 「尖頭が七つあり、その一つ一つの先端に目も眩まんばかりの光輝を発する星状のものが付いております」

 リフォーマーと名乗る霊からの通信。
 「霊は愛と知識の進歩と共に光輝と美が増して行きます。頭(インペレーター)の頭上の王冠はその崇高な霊格、純粋性、愛、犠牲心、そして神への真摯な献身の象徴です。よほど高貴にして神聖なる者しか授からない王冠です。
 霊が身に付けた叡智は、他の霊にはその衣装とサファイヤブルーのオーラに象徴されているのが見て分かります。又愛の深さは犠牲心と献身を象徴する深紅によって知れます。それを偽って見せる方法はありません。霊界では全ての偽装が剥ぎ取られる。偽善も見せかけも不可能です。欠点も長所も偽ることが出来ません。真に自分のものでないものを自分のものであるかに装うことは出来ません。真に自分のものは霊という存在の生得の資質のみです。
 今我々の会議が終了し、大方の者はそれぞれの仕事に戻っています。インペレーター霊はまだ天上界に留まっておられるが、その内戻って来られるでしょう。頭は所用でよく天上界へお帰りになります。頭程になられると地上の人間を特別に支配するということはなさりません。全体としての指揮・監督に当たられます」

-よほど高い地位の方なのでしょうか。

 「左様。高級神霊界においても指導的立場にあられる霊のお一人です。それ程の方がこうして直接地上へ戻って来られることは極めて稀なことです。大抵は中継者として他の霊に命令を下します。よほどの大事業においてのみ高級神霊が直接戻って来られるが、それでも直接一個の人間を支配することはなく、総合的に指揮・命令を下し、計画をお立てになる。
 その会議の為、そして又、聖なる霊力の摂取の為に終結した壮大な光り輝く存在の群がもしも人間の目に映れば、言い表せない喜悦を覚えることでしょう。が、他方にはその反対の勢力も控えています。邪霊の大軍が二重、三重に終結し、神の真理の啓示の進歩を阻止し、歪めんとして、手ぐすね引いて待機しています」

 インペレーターは地上では旧約聖書に出ているマラキ(マラカイ)であるとの話について尋ねる。
-その名は象徴的な意味で用いているのでしょうか。(Malachi はユダヤ語で〝使者〟の意味がある-訳者)

 「いや、そうではない。述べられたことは事実であり、象徴的なものではありません」

-あなたはリフォーマーと名乗っておられますが・・・・(reformer には〝改革者〟の意味があり、これは象徴的に用いている-訳者)

 「地上時代の私はネヘミヤと同一人物です。(旧約聖書ネヘミヤ記の筆者で紀元前五世紀のユダヤの指導者-訳者)同じ予言者と呼ばれた人物でも、モーセ、マリヤ、エレミヤ、エゼキエルに勝る霊覚者はいません。少なくとも記録に残されているユダヤ人の中にはいません。
 エホバは、よく言われている通り、アブラハムとイサクとヤコブの神でした。唯一絶対神ではなく、言わば一種の守り神です」

 モーゼスが通信霊の名乗る名前と本人との同一性に疑念を挟んだところ、インペレーターが答えた。

 「そうした名前は、貴殿に集中的にもたらされる影響力を代表したものに過ぎない。時にはその影響力は必ずしも一個の霊からのものとは限らぬもので、言うなれば非個人的である。一個の精神の産物ではなく、複数の精神の集約されたものである場合が寧ろ多い。
 と言うのも、貴殿に関わっている霊の多くは、更に高い霊格の霊より届けられる影響力の通路に過ぎないのである。そうするより外に影響力が届けられる手段がないのである。我々はよく会議を開き討議を重ねる。従って貴殿が受け取るものは我々の思想の合体したものである場合が多いことになる。
 貴殿は霊的資質の開拓を心掛け、肉体的欲望を抑制し、俗世的環境を超脱することが肝要である。外面的な物的生活を内面的な霊的生活、より実在に近い生活への準備と見做すべきである。こちらの世界こそ実在であり、そちらの生活はその影である」

 「特に留意して欲しいことは、正常な霊的能力と異常な霊的能力の違いである。霊が外部から霊媒に直接的に働きかけて入神させ、その霊を肉体から一時的に退去させ、代わって別の霊がその身体的組織を操作するというやり方は異常手段であり、例えてみれば催眠術で患者を催眠状態に導くのと同じである。
 正常な霊的能力というのは霊が潜在的資質を開発し、それが背後霊からのインスピレーションによって一段と高められ補強されるという形のものをいう。そこには霊を退去させて入神状態へ導く必要はなく、魂がその霊的才能を補強されて、背後霊団との協議に参加することさえ可能となる。
 魂が受動性の中で教育され、思惟活動の中庸性、行為と意図の純粋性と誠意を構成される。霊的感覚を全開させてインスピレーションの鼓吹を受け入れる。かつては異常手段によって苦痛の中に伝えられたものが、今や、ごく自然な形で流れ込む。本来の霊力が阻害されることも阻止されることもなく、伸び伸びと成長し豊かになっていく」