自殺ダメ


 (自殺ダメ管理人よりの注意 この元の文章は古い時代の難解な漢字が使用されている箇所が多数あり、辞書で調べながら現代で使用するような簡単な漢字に変換して入力しています。しかし、入力の過程で、間違える可能性もあります故、どうかご了承ください)

 私がお神使の神様から真っ先に言い聞かされたお言葉は、今ではあまりよく覚えてもおりませぬが、大体こんなような意味のものでございました。-
 『そなたはしきりに先刻から現世の事を思い出して、悲嘆の涙に暮れているが、何事がありても再び現世に戻ることだけは叶わぬのじゃ。そんなことばかり考えていると、良い境涯へはとても進めぬぞ!これからはワシがそなたの指導役、何事もよく聞き分けて、尊い神様の裔孫(みすえ)としての御名を汚さぬよう、一時も早く役にも立たぬ現世の執着から離れるよう、しっかりと修行をしてもらいますぞ!執着が残っている限り何事も駄目じゃ・・・・』
 が、その場合の私には、こうした神様のお言葉などは殆ど耳にも入りませんでした。私は色々の難題を持ち出して散々神様を困らせました。お恥ずかしいことながら、罪滅ぼしのつもりで一つ二つここで懺悔いたしておきます。
 私が持ちかけた難題の一つは、早く良人に会いたいという注文でございました。『現世で怨みが晴らせなかったから、良人と二人力を合わせて怨霊となり、せめて仇敵を取り殺してやりたい・・・・』-これが神さまに向かってのお願いなのでございますから、神さまもさぞ呆れ返ってしまわれたことでしょう。勿論、神様はそんな注文に応じてくださる筈はございませぬ。『他人を怨むことは何より罪深い仕業であるから許すことは出来ぬ。又良人には現世の執着が除れた時に、機会を見て会わせてつかわす・・・』いとも穏やかに大体そんな意味のことを諭されました。もう一つ私が神様にお願いしたのは、自分の遺骸を見せてくれとの注文でございました。当時の私には、せめて一度でも眼前に自分の遺骸を見なければ、何やら夢でも見ているような気持で、諦めがつかなくなって仕方がないのでした。神様は暫し考えておられたが、とうとう私の願いを容れて、あの諸磯の隠宅の一間に横たわったままの、私の遺骸をまざまざと見せてくださいました。あの痩せた、蒼白い、まるで幽霊のような醜い自分の姿-私は一目見てぞっとしてしまいました。『モー結構でございます』覚えずそう言って御免を蒙ってしまいましたが、この事は大変私の心を落ち着かせるのに効能があったようでございました。
 まだ外にも色々ありますが、あまりにも愚かしい事のみでございますので、一先ずこれで切り上げさせて頂きます。現在の私とて、まだまだ一向駄目でございますが、帰幽当座の私などはまるで醜い執着の凝塊、只今思い出しても顔が赤らんでしまいます・・・。
 兎に角神様もこんな聞き分けのない私の処置にはほとほとお手を焼かれたらしく、色々と手をかえ、品をかえて御指導の労を執ってくださいましたが、やがて私の祖父・・・・私より十年程前に亡くなりました祖父を連れて来て、私の説諭を仰せ付けられました。何しろとても会われないものと思い込んでいた肉親の祖父が、元の通りの慈愛に溢れた温容で、泣き悶えている私の枕辺のひょっくりとその姿を現したのですから、その時の私の嬉しさ、心強さ!
 『まあお爺さまでございますか!』私は覚えず跳び起きて、祖父の肩に取り縋ってしまいました。帰幽後私の暗い暗い心胸に一点の光明が射したのは実にこの時が最初でございました。
 祖父は様々に私を労わり、且つ励ましてくれました。-
 『そなたも若いのに亡くなって、誠に気の毒なことであるが、世の中は全て老少不定、寿命ばかりは何とも致し方がない。これから先はこの祖父も神様のお手伝いとして、そなたの手引きをして、是非ともそなたを立派なものに仕上げて見せるから、こちらへ来たとて決して決して心細いことも、又心配なこともない。請合って、他の人達よりも幸福なものにしてあげる・・・・』
 祖父の言葉には格別これと取り立てて言う程のこともないのですが、場合が場合なので、それは丁度しとしとと降る春雨の乾いた地面に浸みるように、私の荒んだ胸に融け込んで行きました。お蔭で私はそれから幾分心の落ち着きを取り戻し、神様の仰せにも段々従うようになりました。人を見て法を説けとやら、こんな場合にはやはり段違いの神様よりも、お馴染みの祖父の方が、却って都合のよいこともあるものと見えます。私の祖父の年齢でございますか-確か祖父は七十余りで亡くなりました。色白で細面で、小柄の老人で、歯は一本なしに抜けておりました。生前は薄い頭髪を茶筅(ちゃせん)に結っていましたが、幽界で私の許に訪れた時は、意外にもすっかり頭を丸めておりました。私と違って祖父は熱心な仏教の信仰者だった為でございましょう・・・・・。
       
       
自殺してはならない霊的な理由 自殺志願者は、まず[自殺の霊的知識]を読んで!
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