自殺ダメ


 (自殺ダメ管理人よりの注意 この元の文章は古い時代の難解な漢字が使用されている箇所が多数あり、辞書で調べながら現代で使用するような簡単な漢字に変換して入力しています。しかし、入力の過程で、間違える可能性もあります故、どうかご了承ください)

 こちらの世界の仕事は、何をするにも至極あっさりしていまして、全てが手っ取り早く運ばれるのでございますが、それでもいよいよこれから龍宮行と決まった時には、そこに相当の準備の必要がありました。何より肝要なのは斎戒沐浴・・・・つまり心身を清める仕事でございます。勿論私共には肉体はないのでございますから、人間のように実地に水などを被りは致しませぬ。ただ水を被ったような清浄な気分になればそれで宜しいので、そうすると、いつの間にか服装までも、自然に白衣に変わっているのでございます。心と姿とがいつもぴったり一致するのが、こちらの世界の掟で、人間界のように心と姿とを別々に使い分けることばかりはとても出来ないのでございます。
 兎も角も私は白衣姿で、先ず御神前に端座祈願し、それからあの龍神様のお祠へ詣でて、これから龍宮界へ参らせて頂きますと御報告申し上げました。先方から何とか返答があったかと仰るか・・・・それは無論ありました。『歓んであなたのお出でをお待ちしております・・・』とそれはそれは丁重な御挨拶でございました。
 龍神様のお祠から自分の修行場へ戻ってみると、もう指導役のお爺さんが、そこでお待ちになっておられました。
 『準備が出来たら直ぐに出掛けると致そう。ワシが龍宮の入り口まで送ってあげる。それから先は汝一人で行くのじゃ。何も修行の為である。あまりワシに頼る気になっては面白うない・・・』
 そう言われた時に、私は何やら少し心細く感じましたが、それでも直ぐに気を取り直して旅支度を整えました。私のその時の旅姿でございますか・・・。それは現世の旅姿そのまま、言わばその写しでございます。かねて龍宮界は世にも綺麗な、華美なところと伺っておりますので、私もそのつもりになり、白衣の上に、私の生前一番好きな色模様の衣装を重ねました。それは綿に入った、裾の厚いものでございますので、道中は腰の所で紐で結べるのでございます。それからもう一つ道中姿に無くてはならないのが被衣(かつぎ)・・・私は生前の好みで、白の被衣をつけることにしました。履物は厚い草履でございます。
 お爺さんは私の姿を見て、にこにこしながら『中々念の入った道中姿じゃナ。乙姫様もこれを御覧なされたらさぞお歓びになられるであろう。ワシなどはいつも一張羅じゃ・・・・』
 そんな軽口をきかれて、御自身はいつもと同一の白衣に白の頭巾を被り、そして長い長い一本の杖を持ち、素足に白鼻緒の藁草履を穿いて私の先に立たれたのでした。ついでにお爺さんの人相書きをもう少し詳しく申し上げますなら、年齢の頃はおよそ八十位、頭髪は真っ白、鼻下から顎にかけてのお髭も真っ白、それからまつげもやはり雪のように真っ白・・・・・全て白づくめでございます。そしてどちらかと云えば面長で、目鼻立ちのよく整った、上品な面差しの方でございます。私はまだ仙人というものをよく存じませぬが、もし本当に仙人があるとしたら、それは私の指導役のお爺さんのような方ではなかろうかと考えるのでございます。あの方ばかりはどこからどこまで、綺麗に枯れ切って、すっかりあく抜けがしておられます。
 山の修行場を後にした私達は、随分長い間険しい山道をば、下へ下へ下へと降ってまいりました。道はお爺さんが先に立って案内してくださるので、少しも心配なことはありませぬが、それでも所々危なっかしい難所だと思ったこともございました。又道中どこへ参りましても例の甲高い霊鳥の鳴き声が前後左右の樹間から雨の降るように聴こえました。お爺さんはこの鳥の声がよほどお好きと見えて、『こればかりは現界ではきかれぬ声じゃ』と御自慢をしておられました。
 漸く山を降り切ったと思うと、たちまちそこに一つの大きな湖水が現れました。よほど深いものと見えまして、湛えた水は藍を流したように蒼味を帯び、水面には対岸の鬱蒼たる森林の影が、くろぐろと映っていました。岸はどこもかしこも皆割ったような岩で、それに松、杉その他の老木が、大蛇のように垂れ下がっているところは、風情が良いというよりか、寧ろもの凄く感ぜられました。
 『どうじゃ、この湖水の景色は・・・汝はちと気に入らんであろうが・・・・』
 『私はこんな陰気くさい所は厭でございます。でもここは何ぞいわれのある所でございますか?』
 『ここはまだ若い、下級の龍神達の修行の場所なのじゃ。ワシは時々見回りに来るので、ようこの池の勝手を知っている。何も修行じゃ、汝もここでちょっと統一をしてみるがよい。沢山の龍神達の姿が見えるであろう・・・・』
 あまり良い気持は致しませんでしたが、修行とあれば辞することも出来ず、私はとある岩の上に座って統一状態に入ってみますと、果して湖水の中は肌の色の黒っぽい、あまり品の良くない龍神さんでぎっしりつまっていました。角のあるもの、無いもの、大きなもの、小さなもの、眠っているもの、暴れているもの・・・・・。初めてそんな無気味な光景に接した私は、覚えずびっくりして眼を開けて叫びました。-
 『お爺さま、もう沢山でございます。どうぞもっと晴れやかな所へお連れ下さいませ・・・・』
       
       
自殺してはならない霊的な理由 自殺志願者は、まず[自殺の霊的知識]を読んで!
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