自殺ダメ


 (自殺ダメ管理人よりの注意 この元の文章は古い時代の難解な漢字が使用されている箇所が多数あり、辞書で調べながら現代で使用するような簡単な漢字に変換して入力しています。しかし、入力の過程で、間違える可能性もあります故、どうかご了承ください)

 私の修行場を少し下へ降りた山の半腹に、小じんまりとした一つの平地がございます。周囲には程よく樹木が生えて、丁度置石のように自然石があちこちにあしらってあり、そして一面にふさふさした青苔がぎっしり敷き詰められておるのです。そこが私達夫婦の会合の場所と決められました。
 あなたも御承知の通り、こちらの世界では、何をやるにも、手間暇間は要りません。思い立ったが吉日で、直ぐに実行に移されて行きます。
 『話が決まった上は、これから直ぐに出掛けるとしよう・・・・』
 お爺さんは眉一つ動かされず、済まし切って先に立たれますので、私も黙ってその後に付いて出掛けましたが、しかし私の胸の内は千々に砕けて、足の運びが自然遅れ勝ちでございました。
 申すまでもなく、十幾年の間現世で仲良く連れ添った良人と、久しぶりで再開するというのでございますから、私の胸には、夫婦の間ならでは味わわれぬ、あの一種特別の嬉しさが急にこみ上げて来たのは事実でございます。全て人間というものは死んだからと言って、別にこの夫婦の愛情に何の変わりがあるものではございませぬ。変わっているのはただ肉体の有無だけ、そして愛情は肉体の受持ちではないらしいのでございます。
 が、一方にかく嬉しさがこみ上げると同時に、他方には何やら空恐ろしいような感じが強く胸を打つのでした。何しろここは幽界、自分は今修行の第一歩を済ませて、現世の執着が漸くのことで少しばかり薄らいだというまでのよくよくの未熟者、これが幾十年ぶりかで現世の良人に会った時に、果して心の平静が保てるであろうか、果して昔の、あの醜い愚痴やら未練やらが首をもたげぬであろうか・・・どう考えてみても自分ながら危なっかしく感じられてならないのでした。
 そうかと思うと、私の胸のどこやらには、何やら気まりが悪くてしようのないところもあるのでした。久しぶりで良人と顔を合わせるのも気まりが悪いが、それよりも一層恥ずかしいのは神様の手前でした。あんな素知らぬ顔をしておられても、一から十まで人の心の中を洞察する神様、『この女はまだ大分娑婆の臭みが残っているナ・・・・』そう思っていられはせぬかと考えると、私は全く穴へでも入りたいほど恥ずかしくてならないのでした。
 それでも予定の場所に着く頃までには、少しは私のはらが据わってまいりました。『たとえ何事ありとも涙は出すまい』-私は固くそう決心しました。
 先方へついてみると、良人はまだ来ておりませんでした。
 『まあよかった・・・』その時私はそう思いました。いよいよとなると、やはりまだ気後れがして、少しでも時刻を延ばしたいのでした。
 お爺さんはとみれば何処に風が吹くと言った面持で、ただ黙々として、あちらを向いて景色などを眺めておられました。
       
       
自殺してはならない霊的な理由 自殺志願者は、まず[自殺の霊的知識]を読んで!
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