自殺ダメ


 (自殺ダメ管理人よりの注意 この元の文章は古い時代の難解な漢字が使用されている箇所が多数あり、辞書で調べながら現代で使用するような簡単な漢字に変換して入力しています。しかし、入力の過程で、間違える可能性もあります故、どうかご了承ください)

 母に会ってからの私は、暫くの間気分が何となく落ち着かず、統一の修行をやってみても、ツイふらふらと鎌倉で過ごした娘時代の光景を眼の中に浮かべてみるようなことが多いのでした。『こんなことでは本当の修行にも何にもなりはしない。気晴らしに少し戸外へ出てみましょう・・・・』とうとう私は単身で瀧の修行場を出かけ、足のまにまに、谷川を伝って、下方へ下方へと降りて行きました。
 戸外はやはり戸外らしく、私は直に何ともいえぬ朗らかな気持になりました。それに一歩一歩と川の両岸がのんびりと開けて行き、そこら中には綺麗な野生の花が、所せきまで咲き匂っているのです。『まあ見事な百合の花・・・・』私は覚えずそう叫んで、岩間から首をさし出していた半開の姫百合を手折り、小娘のように頭髪に挿したりしました。
 私がそうした無邪気な乙女心に戻っている最中でした。不図付近に人の気配がするのに気が付いて、驚いて振り返って見ますと、一本の満開の山椿の木陰に、年齢の頃はやっと十歳ばかりの美しい少女が、七十歳位と見える白髪の老人に伴われて立っていました。
 『あれは山椿の精ではないかしら・・・』
 一旦はそう思いましたが、眼を定めてよくよく見ると、それは妖精でも何でもなく、やはり人間の子供なのでした。その娘はよほど良い家柄の生まれらしく、丸ポチャの愛くるしい顔にはどことなく気品が備わっており、白練の下衣に薄い薄い肉色の上衣を重ね、白のへこ帯を前で結んでだらりと垂れた様子と言ったら飛びつきたい程優美でした。頭髪はうなじの辺りで切って背後に下げ、足には分厚い草履をつっかけ、全てがいかにも無造作で、どこを探しても厭味のないのが、寧ろ不思議な位でございました。
 兎に角日頃ただ一人山の中に閉じ篭り、滅多に外界と接する機会のない私にとりて、こうした少女との不意の会合は世にももの珍しい限りでございました。私は不躾とか、遠慮とか言ったようなことはすっかり忘れてしまい、早速近付いて付き添いのお爺さんに訊ねました。-
 『あの、このお子さまは、どこのお方でございますか?』
 『これはもと京の生まれじゃが、』と老人は一向済ました面持で『ごく幼い時分に父母に訣(わか)れ、そしてこちらの世界に来てからかくまで生長したものじゃ・・・』
 『まあこちらの世界で大さくなられたお方・・・私、まだ一度もそう言ったお方にお目にかかったことがございませぬ。もしお差支えがなければ、これから私の瀧の修行場までお出掛けくださいませぬか。ここからそう遠くもございませぬ・・・』
 『あなたの事はかねて瀧の龍神さんから伺っております・・・。ではお言葉に従ってこれからお邪魔を致そうか・・・。雛子、このおばさまに御挨拶をなさい』
 そう言われると少女はにっこりして丁寧に頭を下げました。
 私はいそいそとこの二人の珍客を伴いて、瀧の修行場へと向かったのでした。
       
       
自殺してはならない霊的な理由 自殺志願者は、まず[自殺の霊的知識]を読んで!
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