自殺ダメ


 (自殺ダメ管理人よりの注意 この元の文章は古い時代の難解な漢字が使用されている箇所が多数あり、辞書で調べながら現代で使用するような簡単な漢字に変換して入力しています。しかし、入力の過程で、間違える可能性もあります故、どうかご了承ください)

 或る夜社頭の階段の辺に人の気配が致しますので、心を鎮めてこちらから覗いてみますと、そこには二十五、六の若い美しい女が、六十位の老女を連れて立っておりましたが、血走った眼に洗い髪をふり乱している様子は、どうみても只事とは思われないのでした。
 女はやがて階段の下に跪いて、細々と一部始終を物語った上で、『何卒神様のお力で子供を一人お授け下さいませ。それが男の子であろうと、女の子であろうと、決して勝手は申しませぬ・・・』と一心不乱に祈願を籠めるのでした。
 これで一通り女の事情は判ったのでございますが、男の方を調べなければ何とも判断しかねますので、私は直ぐその場で一層深い精神統一状態に入り、仔細にその心の中まで探ってみました。すると男も至って志操の確かな、優しい若者で、他の女などには目もくれず、堅い堅い決心をしていることがよく判りました。
 これで私の方でも真剣に身を入れる気になりましたが、何分にもこんな祈願は、まだ一度も手掛けたことがないものでございますから、どうすれば子供を授けることが出来るのか、更に見当がとれませぬ。よんどころなく私の守護霊に相談をかけてみましたが、あちらでもやはりよく判らないのでございました。
 そうする中にも、女の方では、雨にも風にもめげないで、初夜頃になると必ず願掛けに参り、熱誠を籠めて、早く子供を授けて頂きたいとせがみます。それを聴く私は全く気が気でないのでございました。
 とうとう思案に余りまして、私は指導役のお爺さんに御相談をかけますと、お爺さんからは、こんな御返答がまいりました。-
 『それは結構なことであるから、是非子供を授けてやるがよい。但しその方法は自分で考えなければならぬ。それがつまり修行じゃ。こちらからは教えることは出来ない・・・・』
 私としては、これはとんでもないことになったと思いました。兎に角相手なしに妊娠しないことはよく判っておりますので、とりあえず私は念力を籠めて、あの若者を三崎の方へ呼び寄せることに致しました・・・。つまり男にそう思わせるのでございますが、これは中々並大抵の仕事ではないのでございまして・・・。
 幸いにも私の念力が届き、男はやがて実家から脱け出して、ちょいちょい三崎の女の許へ近付くようになりました。そこで今度は産土の神様にお願いして、その御計らいで首尾よく妊娠させて頂きましたが、これがつまり神の申し子と申すものでございましょう。只その詳しい手続きは私にもよく判りかねますので・・・。
 これで先ず仕事の一段落はつきましたようなものの、ただこのままに棄て置いては、折角の願掛けが叶ったのか、叶わないのかが、さっぱり人間の方に判りませんので、何とかしてそれを先方に通じさせる工夫が要るのでございます。これも指導役のお爺さんから教えられて、私は女が眠っている時に、白い珠を神様から授かる夢を見せてやりました。御存知の通り、白い珠はつまり男の子のしるしなのでございまして・・・。
 女はそれからも引き続いてお宮に日参しました。夢に見た白い球がよほど気掛かりと見えまして、いつもいつも『あれはどういう訳でございますか?』と訊ねるのでございましたが、幽明交通の途が開けていない為に、こればかりは教えてやることは出来ないので甚だ困りました。-が、その中、妊娠ということが次第に判って来たので、夫婦の歓びは一通りでなく、三崎にいる間は、よく二人で連れ立ちてお礼に参りました。
 やがて月満ちて生まれたのは、果たして珠のような、きれいな男の子でございました。俗に神の申し子は弱いなどと申しますが、決してそのようなものではなく、この子も立派に成人して、父親の実家の後を継ぎました。私のところに参る信者の中では、この人達などが一番手堅かった方でございまして・・・。

 こう言った実話は、まだいくらでもございますが、そのおうはさは別の機会に譲り、これからごく簡単に神々のお受持につきて、私の存じているところを申し上げて、一先ずこの通信を打ち切らせて頂きとうございます。