自殺ダメ


 (自殺ダメ管理人よりの注意 この元の文章は古い時代の難解な漢字が使用されている箇所が多数あり、辞書で調べながら現代で使用するような簡単な漢字に変換して入力しています。しかし、入力の過程で、間違える可能性もあります故、どうかご了承ください)

 この通信の発送人たる一個の死者、取りも直さずかくいう私は、二十世紀の初に地上生活と離れてから後も、引き続いて人間界との接触を失うことなく、歩一歩科学の発達を辿り、世界大戦の推移を極め、以って最近の世界的経済戦にまで及んでいる。彼は地上生活を送っている生身の知己、友人の内部意識と連絡を保っているお蔭で、地上の人類の精神上の変化に通暁している。彼は十九世紀人士が物的生活に満足していたに反し、最近の二十世紀人士が、超現象世界の確実なる認識を、心から求めていることを知っている。悲しい哉地上の人間の魂は、極めて稀なる機会に於いてのみ、他界との接触に成功することが出来る。彼等の到達し得る最高の入神状態と言ったところで、多寡が知れている。これを補充するにはやはり、他界の居住者からの指教に待たねばならぬ。私は夢幻の世界を後に、現在漸く色彩の世界に突入したに過ぎないが、しかしそこから覗けば、どうやら人類進化の最後の目標-超越界の真相までも判る。同時に我々は、心掛け次第で、下方は地の世界にまで降り、自分を愛する人達又は精神的に自分と共鳴する人達と、立派に交通を試みることが出来る。
 こんな次第で、我々は、現在地上の人達を悩ましつつある不思議な不安の原因と、その不安の背後に秘められたる目的とをよく知っている。かかる不安が地の世界を襲っているのは、決して偶然ではない。そこには厳然たる必要、確乎たる目的があるのである。
 私が今こちらの世界からこうして通信を送るのも、結局生前死後に亘りて、人間の踏みて行くべき大道につきて、何等かの暗示を与えたい微衷に外ならぬ。
 (評釈)現代の世界人類を悩ます大きな不安-その原因並に目的の発見が、実に現在地上の人類に課せられたる大々的宿題である。我々心霊学徒からいえば、その解決の鍵は、手近に転がっていると思われる。外でもない、それは『人間の視野の拡大』である。マイヤースの通信も、詮ずる所これを説いているに過ぎない。ところが現代人の大多数は、今尚成るべく眼を瞑って物質界以外を見まいとする。これでは永久にこの大々的不安の除かるるよしもない。
 見よ洋の東西に於いて、最近しきりに提唱さるる大小の打開策を、曰く平価切り下げ、曰く金輸出禁止、曰く軍縮会議、曰く外交工作、曰く不戦条約、曰く何々・・・。あえて無用というではないが、惜しい哉その視野は、何れも物質的現象世界に限られている。これでは到底根本的なる局面の打開は出来ない。何となれば地上の物質界は、決してそれだけで独立した存在でなく、そこに起こる所の大小無数の出来事は、悉く超現象的内面の世界から操縦されているからである。マイヤースの述べている通り、かかる不安が地の世界を襲っているのは、決して偶然ではなく、そこには厳然たる必要、確乎たる目的があるのである。
 かく考える時に、現代の不安を除かうと思えば、先ずイの一番に人間の視野を超現象の世界、換言すれば霊の世界、神の世界にまで広げねばならぬことは、火をみるよりも明らかである。ここに心霊科学の研究の必要が起こる。全ては心霊科学の研究が開始されてからの話で、それ以前の千の工夫、萬の計画も、到底徹底的打開策とはなり得ないであろう。
 霊とか神とかいえば現代人の大多数は二の足を踏むが、これは主として既成宗教者流、又霊術者流の罪である。彼等の多くは、学術的素養もなければ、又純真なる心情の所有者でもなく、神とか霊とかいうものを、単にペテン、ゴマカシの材料に使った。その弊害たるや実に大きい。現に日本国内には、今尚そうした弊風が盛んに行なわれて、識者をして愛想を尽かさしめている。神や霊が無いのでもなければ、又神や霊が悪いのでもない。これで飯を喰っている職業的宗教者流、霊術者流が悪いのである。
 この多年の弊害を打破し、純学術的基礎の上に立ちて、超現象世界の探究を進めつつあるのが実に近代心霊研究で、今日に於いては既に立派な一の学問となっている。これでこそ、人類は初めて迷信の弊害から完全に脱却し得ると同時に、又健全なる思想、信仰の樹立を期する事も出来るというものである。要するに現代世界の不安は、世界の人類が心霊事実に気が付かず、たとえ気が付いても、目前の小利小害に引きづられて、愚図愚図煮え切れない態度を持している為に外ならぬ。諸外国は兎に角、肝腎な日本国民の自覚は、果たして何の日に来るであろうか?