自殺ダメ


 (自殺ダメ管理人よりの注意 この元の文章は古い時代の難解な漢字が使用されている箇所が多数あり、辞書で調べながら現代で使用するような簡単な漢字に変換して入力しています。しかし、入力の過程で、間違える可能性もあります故、どうかご了承ください)

 私は生者と生者との間に起こる、思想伝達につきて述べようと思う。それは或る点に於いて、生者と死者との間に起きる思想伝達とは相違している。後者にありては、我々の方で余程の工夫調節を要する。が、我々は完全に自分の内在的精神を熟知しているので、仕事が簡単である。地上の人間の方で、もっとよく内在的精神を知ってくれれば受信発信共に、よほど容易になるに相違ない。が、兎も角私は出来るだけ解説を試みる。
 私は既に、かの潜在意識と肉体とを連係する所の、幽的液状物につきて諸君に物語った。所で、この液状物は間断なくその形態を変え、肉体には全然見られぬような強い弾力性を帯びており、その感受性たるや実に驚くべきものがある。ただ困るのは、右の液状物と、脳との連絡が不確実なことである。イヤ寧ろ人間の方で、いかに両者を結合せしむべきかを理解していないことである。両者を結合せしむるには幾つも方法がある。その一つは自分の心を、或る問題から引き離すことによりて、心身の活動を鈍らせることである。一体この液状物中には記憶が印象せられており、捜せばいくらでも見つかる。又この液状物は、以心伝心式に外来の通信を受け取る力がある。そしてそうした通信は、実は平生沢山受け取っているのだが、ただ特殊の人間に限りて、これを脳に伝えることが出来る。通信を空間に発送するのも、又この液状物である。そんな場合に或る一個の独立霊が伝送係を引き受けることは稀である。単に心の繊維ともいうべき多くの遊糸が現れて、通信を自己の液状物内に引き入れ、それから脳に印象すると言った手続きである。
 科学者達は、到底生理的にも、又物理的にも、生者と死者との間の思想伝達現象を説得し得ないと信じているらしい。が、魂の生理学からいえば、立派にこれを説明し得ると私は主張する。一見すれば、何やらこの言葉に矛盾があるように聞こえるかも知れぬが、決してそうでない。人間がまだ発見するに至らない極微分子-それがあまりにも微細なので、人間はこれを『物』として取り扱おうとせぬであろうが、しかし我々死者は、遙かに精妙な知覚を有っているので、これ等の微分子を『物』として取り扱うことが出来る。勿論地上の所謂『物』とは多くの点に於いて類似しているとはいえないが・・・。兎に角これ等の微分子の特質は、それが感情と思想との影響を受け易いことである。即ち意念がこれ等の分子に活力を与え、それが脳に達した時に、脳はこれを適当の形態に翻訳する。
 一体魂のエーテル体が、強烈に意識によりて左右せられ、又極めて迅速に、或る刺激の感応を受け易いことは、既に述べた通りである。なので今ここで思想伝達の実験を行なおうとすると、意識は発信者によりて送られた思想を捕えるべく大に緊張する。こんな場合に、ある人々にありては、その魂のエーテル体が妙に硬直状態に陥ってしまい、到底通信を受け取る力がなくなる。要するに脳は受信するなかれという、一の本能的警告を発した訳で、この場合には、つまり本能が意識に打ち勝ったのである。この本能こそは外来思想の闖入(ちんにゅう)を防止すべく、自然に人間に備わっているもので、本来甚だ正しい本能と言わねばならない。もしも人間が間断なく他人の思想を受け入れることにのみ従事していたとしたら、その人はよほど不健全な頭脳の所有者となるに相違ない。かるが故に自然は、人類にこの防衛物を賦与して、自己の人格の安全を保たしめているのである。故にこの防衛的本能に打ち勝つ人のみが、初めて受信者として成功する。この際受信に重要なる役割を演ずるのは、内在的精神であって、勿論それとエーテル体とは直接の連絡を保っている。
 私はここで『液状物』などという言葉を用いたが、勿論これを文字通りに解してもらっては困る。地上生活中ならば、私はこんな言葉の使用を避けたでもあろうが、こちらの世界へ来てみると、魂のエーテル体は、この言葉で表現するのが、最もよく実際に当てはまるし、又簡単でもあるから、思い切ってこれを通俗的に使用した次第である。
 『界』という文字も又これを文字通りに解してはならない。私の所謂『界』とは『特殊の境涯』を指すに用いたものである。
 (評釈)魂の用具たる幽的液状態の認識-これが全ての鍵である。そんな感受性に富んだ仲介者があるから、思想伝達が可能であり、又学術的にも合理化する訳である。従って近代心霊科学が最も力瘤を入れてこれを捕えんとしたのは、このエーテル体であったが、幸い今日はほぼ遺憾なき迄にこの難事業に成功し、その認識は一の心霊常識となりつつある。マイヤースの説明は、モウさしたる反対には出会わせぬであろう。
 マイヤースが、霊媒と非霊媒との相違を、主として防衛的本能の作用に帰したのは卓見である。平たく言ったら、全てを任せ切る人と任せ切らない人-ここに霊媒と否との相違が生ずる。どちらにも長所と同時に短所がある。我々は霊媒の仕事に対して、充分の理解と敬意とを払い、霊媒の人格がややもすれば不統一になり易い点は、出来るだけ雅量を以って大目に見てやるべきであろう。