自殺ダメ


 [霊界通信 新樹の通信](浅野和三郎著)より

 (自殺ダメ管理人よりの注意 この文章はまるきり古い文体及び現代では使用しないような漢字が使われている箇所が多数あり、また振り仮名もないので、私としても、こうして文章入力に悪戦苦闘しておる次第です。それ故、あまりにも難しい部分は現代風に変えております。[例 涙がホロホロ零る→涙がホロホロ落ちる]しかし、文章全体の雰囲気はなるべく壊さないようにしています。その点、ご了承ください。また、言葉の意味の変換ミスがあるかもしれませんが、その点もどうかご了承ください)

 新樹が少しずつ、幽界生活に慣れるのを待ち構えて、彼の父は、そろそろ彼に向かい、訪問、会見、散歩、旅行等の注文を発しました。これは一つにはその通信の内容を豊富ならしめたい為でもありましたが、又これによりて成るべく亡児の幽界における活動力を大きくし、同時に、若くして父母兄弟と死別せる亡児の、深い深い心の傷を、成るべく早く癒してやりたい親心からでもありました。こうした方針は今後も恐らく変わることがないでしょう。ここには亡児が彼の住宅に母の守護霊を迎えた時の模様を紹介したいと思います。
 彼の父が初めて来訪者の有無につきて亡児に質問したのは、昭和四年十二月二十九日のことでした。その時亡児が母の守護霊の来訪を希望する模様でしたので、早速その旨を守護霊に通じました。
問「子供が大変寂しいようですから、あなたに一つお客様になって頂きたいのですが・・・」
答「そうでございますか。それは大変面白いと思います。良い思いつきです・・・」
問「ではあなたからちょっとその旨を子供の方に伝えて頂きましょうか」
答「承知致しました。(少時の後)あの子にそう申しましたら大変に歓びまして、それではお待ち致しますから、との返答でございました」
 その日はそれっきりで別れましたが、昭和五年一月元旦、彼の父は右の約束通り、亡児を呼んで、早速母の守護霊の来訪を求めさせました。地上生活とは異なり、こんな場合には、極めて簡単で、亡児がそう思念すれば、それが直ちに先方に通じ、そして先方からは瞬く間に来訪すると言った仕掛けであります。
 それでも亡児は最初ちょっとモジモジしながら、-
「招くことは招きますが、時代が僕と大変に違うから話が上手く通じるかしら・・・」
などと独り言していました。彼の父は多大の興味を以ってその成り行きを待ちました。
 それから凡そ十分間程沈黙が続きましたが、その間に彼の母の霊眼には亡児の幽界に於ける例の住宅が現れ、そこには亡児が和服姿で椅子に腰かけて居る。と、彼の母の守護霊が足利末期の服装で扉を開けて入って来る-そんな光景が手に取る如く現れたのでした。委細は左記亡児の説明に譲ります。-
 僕お母さんの守護霊さんに待っていて頂いて、こちらの会見の模様をお父さんに御報告致します。(亡児は生前そっくりの語調で、近頃になく快活な面持で語り出でました)守護霊さんは、僕の見たところでは、やっと三十位にしか見えません。大変どうも若いですよ。頭髪は紐で結えて後ろに垂れてあります。着物はちょっと元禄らしい、丸味のある袖が付いていますが、もっと昔風です。帯なども大変巾が狭い、やっと五、六寸位のものですが、そいつを背後で結んでダラリと左右に垂らしてある。丁度時代物の芝居などで見る恰好です。着物の柄は割合に華美です。守護霊さんの容貌ですか・・・・、報告係りの資格で、僕構わずブチまけます。細面で、ちょっと綺麗な方です。額には黒い星が二つ描いてあるが、何と言いますかね、あれは・・・そうそう黛(まゆずみ)、その黛と称するものがくっきりと額に描いてあるのだから、僕達とは余程時代がかけ離れている訳です。履物ですか・・・履物は草履です。こうつあ僕の眼にも大して変わったところはありません。
「これが僕の室ですから、どうぞお入りください」
 僕がそう言いますと、守護霊さんは、大変しとやかな方で、部屋の勝手が違っているので、ちょっと困ったと云った御様子でしたが、兎も角も内部へ入って来られました。僕は委細構わず、自分の椅子を守護霊さんに勧めました。僕も一脚欲しいなあと思うと、いつの間にやらもう一脚の椅子が現れました。こんなところはこちらの世界の素晴らしく重宝な点です。
 僕は守護霊さんと向き合って座りましたが、さて何を話してよいやら、何にしろ先方は昔の人で、僕キマリが悪くなってしまったのです。でも仕方がないから僕の方から切り出しました。
「時々霊視法その他色々の事を教えて頂いて、誠に有難う存じました・・・」
 守護霊さんは案外さばけた方で、これをきっかけに僕達の間に大変親しい対話が交換されました。もっとも対話と言っても、幽界では心に思うことが直ぐにお互いに通ずるのですから、その速力は莫迦(ばか)に迅いのです。対話の内容は大体次のようなものです。-
守護霊「いつもあなたの事は、別に名前を呼ばなくても、心に思えば直ぐに会えるので、一度もまだ名前を呼んだことがなかったのですが、今日は、はっきり聞かせてください。何というお名前です?」
僕「僕は新樹というものです」
守「さうですか、シンジュというのですか。大変にあっさりした良い名前です・・・・。私とあなたは随分時代が違いますから、私の申すとこがよくあなたに判るかどうか知れませんが、まあ一度私の話を聞いてみてください・・・。あなたはそんな立派な男子になったばかりで若くて亡くなってしまわれて大変にお気の毒です。あなたのお母さまも、しょっちゅうあなたの事を思い出して嘆いてばかりおられます・・・。しかし、これも定まった命数で何とも致し方がありません。近頃はあなたのお母さんも、又あなたも、大分諦めがついたようで何より結構だと思っています・・・」
僕「有難うございます。今後は一層気をつけて愚痴っぽくならないようにしましょう。ついては一つ守護霊さんの経歴を聴かせて頂きます」
守「私の経歴なんか、古くもあり、又別に変わった話もないからそんな話は止めましょう。それよりか、あなたの現在の境涯を聴かせてください・・・」
 守護霊さんは、御自分の身の上話をするのが厭だと見えまして、僕がいくら訊こうとしてもドーしても物語ってくれません。仕方がないから、僕は自分が死んでからの大体の状況を物語ってやりました。そうすると守護霊さんは大変僕に同情してくれて、幽界に於ける心得と言ったようなものを聞かせてくれました。-
守「私の亡くなった時にも色々現世の事を思い出して、とても堪らなく感じたものです。でも、死んでしまったのだから仕方がないと思って、一生懸命に神さんにお願いすれば、それで気が晴れ晴れとなったものです。そんな事を幾度も幾度も繰り返し、段々歳月が経つ内に現在のような落ち着いた境涯に辿り着きました。あなたもやはりそうでしょう。やはり私のように神さんにお願いして、早く現世の執着を離れて向上しなければいけません・・・・」
 僕は守護霊さんの忠告を大変有り難いと思って聴きました。それから守護霊さんは僕がドーして死んだのか、根掘り葉掘り、しつこく訊ねられました。-
守「そんな若い身で、どうしてこちらへ引取られたのです。詳しく物語ってください・・・」
僕「僕、ちょっとした病気だったのですが、いつの間にか意識を失って死んだことを知らずにいたのです。その中叔父さんだの、お父さんだのから聴かされて、初めて死を自覚したので・・・」
 僕厭だったからわざと詳しい話はせずにおきました。それでも守護霊さんは中々質問を止めません。-
守「それでは、あなたは死ぬつもりはなかったのですね?」
僕「僕ちっとも死ぬつもりなんかありません。こんな病気なんか、何でもないと思っていたんです。それがこんな事になってしまったのです・・・」
守「お薬などはあがらなかったのですか?」
僕「薬ですか、ちっとは薬も飲みました・・・。しかし僕そんな話はしたくありません。僕の執着が綺麗に除かれるまで病気の話なんかお訊きにならないでください・・・」
 この対話の間にも守護霊さんは気の毒がって、散々僕の為に泣いてくれました。やはり優しい、良いお方です。お母さんの守護霊さんですから、僕の為にやはり親身になってお世話をしてくださいます。「何でも判らないことがあったらこちらに相談してください。私の力の及ぶ限りはドーにもしてお力添えを致してあげます・・・」親切にそう言ってくださいました。
 二人の間には他にも色々の雑話が交わされました。-
守「家屋の造りが大変違いますね・・・」
僕「時代が違うから家屋の造りだって違います」
守「たったお一人で寂しくはありませんか?」
僕「別段寂しくありません。僕は色々の趣味を持っていますから・・・・。現にここに掛けてあるのは僕の描いた絵です」
守「まあこの絵をあなたがお描きになすったのですって?こちらへ来てから描いたのですか?」
僕「そうです。これが一番よく描けたので大切に保存してあるのです・・・」
 僕が自慢すると守護霊さんはじっと僕の絵を見つめていましたよ・・・。
大体右に記したところが、亡児によりて通信された会見の顛末でした。彼の父が直接会見の実況を目撃して書いたのでなく、当事者の一人たる亡児からの通信を間接に伝えるのですから、いささか物足りないところがありますが、しかしこれはこうした仕事の性質上致し方がありません。で、幾分でもこの不備を補うべく、左に彼の母の守護霊との間に行われた問答を掲げることに致します。これは亡児が退いてから直ぐその後で行なわれたものです。-
問「只今子供から通信を受けましたが、あなたが新樹を訪問されたのは今回が最初ですか?」
答「そうでございます。私はこれまでまだ一度も子供を訪ねたことがございません」
問「一体あなた方も、ちょいちょい他所へお出掛けになられる場合がおありですか?」
答「そりゃあございます。修行する場合などには他所へ出掛けも致します。もっとも大抵の仕事はじっと座ったままで用が弁じます・・・」
問「今日の御訪問の御感想は?」
答「ちょっと勝手が違うので奇妙に感じました。第一家屋の構造が私達の考えているのと大変に相違していましたので・・・」
問「あなたは先刻しきりに子供の名前を訊かれたそうで・・・」
答「私、今迄は、あの子の名前を呼びませんでした。私達には、心でただあの子と思えば直ぐ通じますので名前の必要はないのです。しかし今日は念の為にはっきり聞かせてもらいました。シンジュと申すのですね。昔の人の名前とは違ってあくどくなくて大変結構だと思いました」
問「あなたは、あの子をやはり、御自分の子のように感じますか?」
答「さあ・・・直接に会わないといくらか感じが薄うございます。けれども今日初めて訪ねて行って、会ってみると、大変にドーも立派な子供で・・・私も心から悲しくなりました。ドーしてまあこういう子供を神さまがこちらの世界にお引き寄せなさいましたかと、口にこそ出さなかったものの、随分酷いことだと思いまして、その時には神さまをお怨み致しました。-私から観ると子供はまだ執着がすっかり除き切れてはいないようでございます。あの子供は元来陽気らしい資質ですから、口には少しも愚痴を申しはしませんが、しかし心の中ではやはり時には家のことを思い出しているようでございます。私は子供に、自分の経験したことを物語り、自分も悲しかったからあなたもやはりそうであろう。しかしこればかりは致し方がないから早く諦める工夫をしなければいけないと申しますと、子供も大変歓びまして、涙をこぼしました。涙の出るのも当分無理はないと思います。自分にちっとも死ぬ気はなかったのですから・・・。私は別れる時に、もし判らないで困ることがあったら、遠慮せず私に相談をかけるがよい。私の力に及ぶ限りは教えてあげるからと言っておきました・・・・」
問「この次は一つあなたのお住まいへ子供を招いて頂けませんか?」
答「お易いことでございます。もっとも住居と申しましても、私の居る所は狭いお宮の内部で、他所の方をお招きするにはあまり面白くありません。どこかあの子の好きそうな所を見つけましょう。心にそう思えば私達にはどんな場所でも造れますから・・・」