自殺ダメ



 これは、やはりキリスト教の牧師だったジョージ・オーエンの守護霊と名乗るザブディエル霊が組織した霊団で、同じく自動書記でも〝霊感書記〟と呼ばれる方法でメッセージを送ってきた。オーエンは当初その内容が信じられなくて、直ぐには公表せず、実に二十五年もの歳月をかけて心霊現象の実在と通信の真実性を確信してから、やっと新聞紙上に連載した。その間のいきさつを〝まえがき〟の中でこう述べている。

 《さて、〝聖職者というものは何でも直ぐに信じてしまう〟というのが世間一般の通念であるらしい。成る程〝信仰〟というものを生命とする職業である以上はそういう観方をされても、あながち見当違いとも言えないかも知れない。
 が、私は声を大にして断言しておくが、新しい真理を目の前にした時の聖職者の懐疑的態度だけは、いかなる懐疑的人間にも決して引けを取らないと信じる。ちなみに私が本通信を〝信ずるに足るもの〟と認めるまでに丁度四分の一世紀を費やしている。すなわち、確かに霊界通信というものが本当にあることを認めるのに十年、そしてその霊界通信という事実が大自然の理法に適っていることをはっきりと得心するのに十五年かかった。》

 通信は第一巻の「天界の低地」編が主としてオーエンの実の母親からのもので構成されている。母子という情緒的な繋がりによってオーエンの能力の地ならしをして、それからオーエンの守護霊ザブディエルからの通信「天界の高地」編が届けられた。さすがに重厚である。が、その身元については何も述べていないし、その手掛かりさえ見出せない。その後第三巻「天界の政庁」編と第四巻「天界の大軍」編が、ザブディエルの配下にあってほぼ同等の霊格を具えた霊からの通信で、その中で〝地球浄化の計画〟が神勅として下されるいきさつが明かされている。
 オーエンが牧師だったせいもあって、その内容は極めてキリスト教的色彩を帯びていて、日本人にはいささか取っ付きにくさが感じられるかも知れないが、同じキリスト教の用語、例えば〝イエス・キリスト〟という最も中心的な存在についての認識の仕方などからして、従来のものとは全く違っている。そのことは、これを新聞紙上に公表したことで教会の長老達の怒りを買い、撤回を迫られたという事実がよく証言している。オーエンはそれに応じることなく、最終的には自ら牧師職を辞して、余生をスピリチュアリズムの為に捧げている。