自殺ダメ



 マルドゥーン氏は十二歳の時に最初の離脱体験をしている。それは初めから終わりまで意識的なもので、これは珍しいことである。「幽体離脱」を書いた時は既に何百回もの体外遊離及び幽体旅行を体験しており、その大半が〝体験夢〟で始まっている。彼も幽体離脱中の強烈な現実感を強調する一人で、これを一度体験したから絶対に死後の存続を信じると主張する。幽体旅行中に霊に会うことはあっても、全て地上界の旅行に限られている。
 彼の説はどれをとっても一考に値するものばかりであるが、ここでそれを全部考察するにはスペースが少なすぎる。例えば、意識的生活はある種の〝霊力〟を消耗しており、睡眠がそれを補う上で不可欠で、睡眠とは幽体が肉体から遊離した時に生じる現象であると考えている。病気の時に遊離体験が多いのはその為であるという。又、所謂夢遊歩行の現象は睡眠中に幽体が遊離してしかも意識がないのと同じであるという。
 初歩の段階の離脱は大抵睡眠中に幽体から数フィートの高さまで硬直状態のまま上昇して、そこで直立し、それから床に降り立つ。そこでシルバーコードの波打つような動きで前後左右に揺れ、その内硬直状態がほぐれて自由な動きが出来るようになる。彼はそのシルバーコードに揺れる範囲を肉体から六ないし十八フィート(健康状態その他の条件によって異なる)と計算し、その時のコードの太さは直径1.5インチであるという。その長さを超えるとコードは淡灰色の細い紐となって見え、幽体は遠距離まで自由に行動出来るようになる。
 よく肉体に戻る際に不快感を伴うことがあるが、その原因は、幽体が肉体に近付いた時点で再び硬直状態になり、更に肉体へ入って筋肉と結び付く時の衝動であると推定している。肉体への入り方には三つの型があるという。①らせん運動による場合、②直線的の場合、③ゆっくりとした振動を伴う場合。この最後の③の場合が一番気持がいいという。この三種類になるのには二つの力が要因となっているという。一つはシルバーコードの引く力、もう一つは幽体への一種の重力作用である。その重力が強過ぎる時に直線的な入り方をし、弱過ぎる時にらせん運動となり、丁度よい強さの時に振動を伴ったものとなる、という。
 こうした現象は離脱時にも生じる。その際に一番大切なのは感情のコントロールである。またマルドゥーン氏は幽体が離脱すると波長が高められると考えている。そう考えないと、同じく幽体を宿している生者の身体を突き抜けてしまう事実が証明出来ないというのである。
 シルバーコードは幽体の後頭部から出て肉体の前頭部か後頭部と繋がっている。他の部分、例えば太陽神経叢(みぞおち)には観察されたことがないという。太陽神経叢の周りには〝神経エネルギー〟が凝縮しているのが見られ、白色光のような光を発していて、それが幽体に青光を与えている。
 マルドゥーン氏は幽体離脱には〝超意識〟精神が働いていると想定する。また体験が意識的なものにせよ無意識なものにせよ、潜在意識によって影響されることがあるし、通常意識による暗示を受けたり、〝習慣による強制〟によって行動することもあるという。こうした原理に基づいて離脱の方法をいくつか述べている。
 あるときマルドゥーン氏は道路ではだかの電線に触れて、もう少しで感電死しそうになり、そのショックで意識的な遊離体験をしたことがある。それ以来、彼は何回も同じシーンを夢で見るようになり、しばしば自室での離脱と結び付くこともあり、一度は数ブロックも離れているその感電場所まで再現されたという。こうした体験は、例えば非業の死を遂げた時のシーンが繰り返されるのを見るとかいった現象を解く鍵を与えてくれそうである。それを幽界の霊が見ている夢であるとする説明も出来ないことはない。