自殺ダメ




 幽体離脱を一度体験した人はその驚異的な開放感によって死後の存続への確信を抱き、以来、その確信は揺らぐことはない。この事実によって、所謂霊能養成会や精神統一その他の手段によって心霊的能力を開発することが重要であることが分かるし、同時に、その原理を日常生活において応用することも大切であることが知れる。
 それは主観的側面であるが、心霊実験によって客観的な側面も知ることが出来る。両者を兼ね備えれば、デュ・プレルが“死後存続の証明は生者を研究することによって確立できる”と主張したその意図が達成されることになる。私はこの分野の科学的研究によって最後は人間の複雑な本性に大きな証明が当てられ、数多くの現象についての一層の理解が得られるものと確信している。
 霊魂説を信じる者にとって科学的知識は全て一つの目標へ向けての手段の一つに過ぎない-人類の霊的発達という目的への一歩である。近代的交通機関の発達によって確かに地球は狭くなり、政治も国際貿易も世界的規模のものとなってきている。しかし霊的側面が遅れている。それは人類の大半が霊の客観的実在についての認識を欠いているからである。
 一方には長い歴史をもつ伝統的宗教の教説(ドグマ)に執着している者がいる。人類を結び付けるどころか分裂の元凶となっているドグマである。そのドグマの矛盾撞着を解決し、世界平和の確固たる礎を築くことが出来るのは心霊科学の広大な分野において得られる確定的事実しかないように思える。
 スピリチュアリズムは交霊会等の催しを通じて数え切れない程の人々に死後存続の証拠を提供したが、同時に、人間の本質と死後の生命についての確定的な知識が得られるのもスピリチュアリズムしかない。科学的志向の人間向けの一段と詳細な知識が着々と積み重ねられつつある。
 こうした観点からみて私は、スカルソープ氏のこの体験記が広く世間に公にされることを嬉しく思う。これまでになかった知識を提供してくれると同時に、既に知られている事実に厖大(ぼうだい)な量の詳細な事実を加えてくれることになった。その詳細な情報こそ本書をこの上なく興味深いものにしている。
 私のこのささやかな解説がこの分野における研究の重要性と普遍的な性格を知って頂く上で役立てば幸いである。

 (原題 “Some Aspects of Astral Projection” by Dr. Karl Muller)

 (注)人間の四種の身体について-訳者
 人間が肉体以外に三種類の身体を具えていることは日本でも古神道で和魂、幸魂、奇魂という用語で出て来るが、浅野和三郎氏が心霊学の立場から確認してこれを幽体、霊体、本体又は神体と名付け、“四魂説”を唱えた(肉体は荒魂)。
 その後西洋にも同じ説を述べる人が出始め、ルース・ウェルチ女史の「霊的意識の開発」にはイラストまで載っている。最早人間が肉体を含めて四つの身体から構成されているというのは確定的事実と言ってよいと思われるが、問題はその呼び方である。日本語ではほぼ浅野氏の呼び方に統一されていきつつあるが、英語ではどうも一定してないようで、それぞれの筆者がどの身体のことを言っているのかを見極めるのに苦労することが多い。読者にはあまり用語に拘り過ぎないようにお願いしておきたい。
 ついでに言わせて頂けば、現段階の地上人類にとっては、人間は死後も生き続ける-従ってその為の霊的身体も具わっている、という基本的知識の普及が急務であって、その身体の詳細な分析的研究は急ぐことはないと私は考えている。
 例えば内臓についての詳しい専門的知識を持つことは必ずしも健康と繋がるものではなく、むしろそんなことに拘らないで、邪念や心配を抱かない明るく積極的な精神状態の方が健康のもとであることが、古今東西を問わず真理であるように、霊的なことも、今述べた基本的なことだけを知って、後は数々の霊訓が教えてくれているような生き方に精励することである。
 “知”に走り過ぎてはいけないというのはどの分野でも言えることである。〝科学的〟ないし〝実証的〟というのは無論大切な一面であるが、それのみに拘ると、かえって総体的には進歩を阻害することを指摘しておきたい。