自殺ダメ



 前の夢を見てから丁度一週間目、一月十九日の晩にワード氏は又も恍惚状態に於いて叔父の姿を見ました。二人の間には早速例の問答です-
 ワード「いかがでございます、相変わらずご勉強ですか?」
 叔父「さぁ、余り捗々しくもないがね・・・・」
 ワード「私は-というよりも私達はあなたにお訊きしたいことが沢山ございますが・・・」
 叔父「何でも訊くがよい。ただ上手くワシに返答が出来ればよいが・・・」
 ワード「一体叔父さん、あなたは目下何処にいらっしゃるのです?何処か遠方からお出ましになるのですか?」
 叔父「そうでもない。ワシは始終ここに居る。ワシ達の世界とお前達の世界とは離れたものではない、ただ違った規則に支配されている。ワシ達の世界には時間と空間とが存在しない。こんなことは甚だ陳腐に聞こえるじゃろうが、真理というものは大抵皆そうしたものじゃ。真理であるから、いずれの時代にも当てはまる」
 ワード「しかし叔父さん、あなたは今ここにお出でなさるでしょう。それなら空間が存在しているではありませんか?」
 叔父「さぁ我々霊界の者は、一の思想の塊、若しくは思想の繋がりと思ってもらえばよかろう。大概それで見当がつくじゃろう。今お前達が地上でロンドンの事を考える。するとお前達の眼にロンドンの光景が浮かんで来る。その点までは我々とお前達とがよく似ている。しかしお前達のもっている霊妙な機能は肉体で押さえつけられているので、ロンドンに起こりつつある時々刻々の変化までは判らない-お前はあの精神感応(テレパシー)というものを知っていると思うが・・・」
 ワード「知っております」
 叔父「あれじゃ、あの精神感応法で全てが判る。あれは我々霊界の者がもってる能力の発露したもので、霊界と物質界との連絡はあれで取れるのじゃ。お前も知っとる通り、霊媒的素質を有する者には遠方の事柄が感識される。ところが霊界に居る者には誰にでもそれが出来る。ワシ達はその方法で意思を通じ合うので、言葉というものは全然使わない。バイブルにもそんな事が書いてあろうがな。それで霊界では嘘を吐いたり、吐かれたりすることがまるきり出来ない-が、これだけの説明ではまだ不充分である。霊界では個々の思想が悉く独立して存在し、そして思想の形が悉く目に見えるのじゃ。霊界の刑罰は主としてこれで行なわれる。自分の犯した罪や悪い考えがありありと形で現れる。しかもその付帯物件までが目に映る・・・」
 ワード「付帯物件と申しますと・・・」
 叔父「さぁワシ自身の恥を晒すのも決まりが悪いから、仮に架空の一例を引いて説明するが、例えばここに一人の男が生前殺人罪を犯したと仮定する。すると単にその犯行ばかりでなく、その犯行の起こった周囲の状況-例えば部屋だの、什器だのに至るまですっかり形態で現れるのじゃ」
 ワード「実際罪を犯したのと、ただ犯意だけに止まる者との間には、何らかの相違がございますか?」
 叔父「さぁそれは一概にも言われまいな。例えばお前の劣情が打ち勝って何かの罪を犯しかけても、お前の良心が最後にそれを押さえつけたとすれば、そんな場合には自分の悪い思想の形が目に映った後で、やがて又自分の善い思想の形が目に映って来るから、心が余程慰められる訳じゃ。ところが何かの故障の為に犯行は無かったとしても、犯意の存在する場合には、それを打ち消すものがないから中々苦しいに相違ない-兎に角霊界の者は、自分自身で造り上げた一つの世界に住むのじゃ。従って自分の造った世界が周囲の人達の造った世界に近ければ近いだけ道連れが多くて寂しくない・・・。孤独が霊界では一番の刑罰じゃ。傷のある者でも他人を愛して友達をこしらえておけば、霊界でそれだけの報酬が来る」