自殺ダメ


 「ワシはその時一つの突っ込んだ質問を先生に発した-
 「私は今物質を棄てて単なる形となっておりますが、この形も又いつか棄てることがありましょうか?」
 そう言うやいなや教室全体は忽ち森閑と静まり返ってしまった。全ての生徒達は先生の返答いかにと何れも固唾を呑んだのである。
 先生「あなたの質問には遺憾ながら私にも充分の解答を与えることが出来ません。私にはただこれだけしか判っていない-次の界に進む時には、我々は現在の姿を持ってはいない。しかし第五界以上に於いてそれがどうなるかは霊界に居る我々の何人にも判りません。我々は霊界を限るところの火の壁を透視する力量は全くない。丁度人間が死の黒い帷(とばり)を透視し得ないのと同様なのである。偉大なる天使達には勿論お判りになっているに相違ない。しかし我々はあなた方と同じく、霊界の者であるからどうしてもそこまでは判らないのです-他にまだ質問がありますか?」
 私「それでは伺います。我々は神により造られ、従って神にすがりて救済を求め、我々の安寧幸福に対して一切の責任を神に負わせます。しからば我々も又自分の造った形に対して責任を負うべきではないでしょうか?」
 この質問で、再び沈黙が全教室に漲るべく見えた。
 先生「あなたは若いのに似ず大変実質のある質問をします-ではこちらから訊ねます。あなたは最初あなたの守護神と暫く言葉を交えた時にどんな体験を得ました?」
 そう先生から訊ねられたので、ワシはあの時の恐ろしい悪夢式の光景を物語り、最後に神に祈願したので、全てが次第に順序よく整頓して行ったことを説明した。
 先生「あなたの質問はそれで大抵解決されたでしょう。あなたの造った思想があなたに向かって責任を求めたではありませんか?」
 そう言われた時にワシは心から恥じ入って頭を下げ、暫く二の句がつげなかった。
 先生「それはそれでよいとして、あなたの質問には奥にもう少し意味があると思います。言って御覧なさい」
 私「私自身は新しい思想を生みますが、思想が思想を生む力があるものでございましょうか?」
 先生「勿論直接にはない。しかし間接にもないでしょうか?」
 私「間接にもないかと存じますが・・・」
 先生「でも物質世界に於いて一の邪悪行為が起こった時に、それを真似る者が現れませんか?」
 私「それは勿論現れます。しかし霊界では万事勝手が違うかと存じますが・・・」
 先生「皆さんの中で誰かこの答弁をやって御覧なさい」
 先生がそう述べると、生徒の一人がやがて次のように答えた-
 「地上に存在するもので霊界にその模写の無いものは一つもありません。樹木でも、建物でもその他一切が皆その通りです。相違点はただ霊界にあの粗末な物質がないだけです」
 私「しかし霊界の悪思想が他に感染して他を邪悪行為に導くというようなことがあるでしょうか?」
 先生「それでは又一つ訊ねる。あなたが地上に居た時に全く無関係な二人、若しくは二人以上の人々が、同時同刻に同一の発明をすることがあるのに気が付きませんか?」
 私「それはしばしば気が付きました。が、私共はそれを偶然の暗号であると考えていました」
 先生「イヤ偶然の暗号などというものは決して存在するものではない。それは人間が自己の無知識-神の根本原則を知らずにいることを隠蔽するに使用する遁辞に過ぎない。所謂偶然の暗号と称するものの裏面には必ず霊界の摂理の手が加わっている。それから又あなたはいつどこから淵源を発したかも判らぬ古い思想が幾代かにわたりて人類に感化を与えていることに気が付きませんか?本国ではすっかり忘れられているにもかかわらず、ともすればそれが遠方の何の連絡もなかりそうな他国民の間に復活している場合も少なくありません-判りましたか?」
 私「そうしますと一の思想は他の新思想を創造して行くのでございますな」
 先生「その通り-が、新思想と言っても全く無関係の思想ではない。何らかの連絡のある思想に限って創造されて行くのです」