自殺ダメ


 越えて4月27日の夜ワード氏は再び叔父さんをその霊界の書斎に訪れました。
 叔父「今日はワシ自身の生活についてもう少しお前に説明しておきたいと思うが・・・・」
 ワード「是非お願いいたします。久しい間そちらの話を伺いませんでしたね」
 叔父「イヤ話は成るべく大勢の人のを聞いておくに限る。たった一人の千篇一律な物語を繰り返し聞いたところで仕方がない。
 今日のワシの話はこの大学の内部の組織に関することにしたいと思う。霊界では沢山の学科に分かれておって、色々の学会が設けられている。学問の種類は大体において四つに分かれる。第一部は霊性の発達を研究する。第二部は不幸な者の救済法を研究する。第三部は地上生活中に興味を感じた問題につきて新発見を成就しようとする。第四部は霊界で発見した新事実を人間界に伝えることの研究をやる。
 霊界にある全ての学会のことを説明していた日には時間が潰れて仕方がないから、そんな話は後日に譲り、上に挙げた四種類の学科についてざっと説明し、その後で全ての代表としてワシの学校の実情でも述べるとしよう。
 霊性の発達の研究-これはワシの現にやりつつあることであるから、一番後へ回して他の三種類の説明から始める。
 不幸な者の救済-これは地獄に堕ちている霊魂の救済法を研究するのと、地上の人類を正道に導くことの研究との二種類に分かれる。
 新発見の研究-その内に属するのは美術、建築、医療、音楽、その他につきて科学的法則を究めんとする色々の学会である。ワシなどは文藝復興期の建築学会に入っているが、これは文藝復興期の精神を尊重しながらこれに新思想を取り入れんとする団体なのである。
 新事実を人間界に伝える研究-これは第三部の研究に伴う必然の仕事で、立派な発明が霊界で出来上がると、何人もそれを人間に普及してやりたくなる。もっとも中にはすっかりこの仕事に懲りてしまって一向冷淡な連中もないではない。霊界の方でも人間の指導に関しては随分苦い経験を嘗めさせられている。いかに優れた霊界の思想でもこれを人間の心にうつして見ると、すっかり匂いが抜けてしまって、うっかりするとポンチ化することが少なくない。更に呆れるのはその発明が有効には使われずに、まるきりとんでもないことに悪用されることである。美術に関するものは大抵前者の運命を辿るものが多く、これに反して科学的機械的の発明は人間の方に印象を与え易い代わりに悪用される虞がある。
 こんな次第で霊界にはその発明を絶対に人類に漏らすまいとする霊魂がいる。第三部の学会ではこんな規則を設けている-「本会の会員はその発明を人類若しくは第四部に属する学会に漏らすことを禁ず」-随分やかましい規則じゃろうがな。
 しかし全ての学会がことごとくそうではない。少しはそこに例外も設けてある。が、兎に角人類との交渉は第四部に属する学会の仕事に属し、諸種の医学会などというものは一番第四部に多い」
 ワード「するとあなた方か人類に霊感を起こさせるには是非とも一の学会に入会する必要があるのですか?個人としてそうすることが出来ないのですか?」
 叔父「出来る事は出来るが、しかし個人事業では上手く行かない。小さくともやはり一の学会に属する方が便利じゃ。
 さてこれから少しワシの入っている大学のことを話そう。幹部は学長が一人、学長の下に次長が一人、別に評議会があってそれを助ける」
 ワード「大変どうもフリーメイソン団の組織に似ているようでございますな」
 叔父「ワシはそんなことは知らないが、事によったらそうかも知れない-さて学生であるが、それは三部に分かれる。第一部が済むと第二部に上り、第二部が済むと第三部に進級する。全て霊能の高下によりて決められる。
 評議員会はこの第三部から選抜した者で組織される。更に色々の役員が、評議員の中から学長によりて選抜される」
 ワード「ますますどうもフリーメイソン団そっくりでございます。三部に分かれるところなどは余程不思議です」
 叔父「そうかも知れない。フリーメイソンの組織なども恐らく霊界から出たものであろうが、これは極めて自然的な施設で、地上の大学でも第一年、二年、三年と分かれ、別に研究生を置いてあるではないか」
 ワード「あなた方にもやはり試験のようものがございますか?」
 叔父「試験はありません。受け持ちの教授がこれでよいと認めると上級へ昇らしてくれるのじゃ。進級する時はいくらか儀式のようなものがある。学級の区別は勿論霊界の他の区別とは別問題じゃ。第三年級に昇ったとて半信仰の者は依然として半信仰の境にいる」
 ワード「あなたは何学級におられます?」
 叔父「ワシかい?ワシはまだ最下級じゃよ。しかし直ぐ次の級へ進むと思う-それはそうとお前はもう帰らねばならない」
 ワード「もう帰るのですか?私はホンの短時間しかここにおりませんが・・・」
 叔父「それでも帰るのじゃ」
 ワード氏は何やら旋風にでも巻き込まれたように大空に吹き上げられ、四顧暗澹(しこあんたん)たる中をグルグル大きな円を描きつつ回転したように覚えたのでしたが、その渦巻きが段々小さくなるに従って次第に知覚を失ってしまいました。